風立たぬーん

えっと、二郎くんがね、結核女子と愛を貫いたり、零戦を作ったり、
おおいに風立ちまくってる間にね、
私が何をできたかって、もう歳をね、ひたすらに重ねてきたわけです。
1コ1コ、着実に積み上げてきたわけです。

32歳。多少、顎が右曲がりに出てる以外は、いたって健康。

なのに、風の方ががねー、風の調子がねー。
もう下半身の方もね、帆を立てろー!イカリを上げろ―!とばかりに、出港の準備は万端なんですけど、なんせ風がねー。風のやつがねー。

32年、風待ち。
もうさー泣きながら人差し指を舐めまして、空に掲げてね、ずっと待ってるんですけど。
9月2日現在、立つ気配なし。無風。

一方、銀幕では、もう二郎くん、風立ちっぱなしなわけ。
あの風の谷ですら、そんなに立ってたかな、ってくらい立ってるわけ。棒立ち。

すごいね、二郎くん。と。
どうやってんの、それ?と。

したらまあ、二郎くんがね、どうやら美しいものが大好きだっつー噂を、風の便りで聞きましてね、えっと、なんかサバの骨の放物線を「美しい」とか寝言みたいなこと言ってるって聞きましてね、
それについて、各界のクリエイティブ男子たちが「わかるわーわかるわー」つってるみたいだけどね、

一応ね、私の顎の骨の放物線もね、なかなかのものだっつーことをね、今日は覚えて帰っていただきたい。

もー、このマンダムカーブの放物線ったら、放物の中の放物。
物投げたら、まずそうなるよねーって軌道を、見事、顎で再現しててね、
なんだったら二郎くんとか私の顎のこの感じを飛行機作りにドンドン活かしてってほしい。

あら何かの間違いじゃない?ってくらい右に曲がってっからね、
もう曲がっちゃって曲がっちゃって、多少、零戦も「あれー?」なんつって2、3機帰ってきたかもしれない。


と言うのも、二郎くん、わたし先日、後輩と「コルギ」に行ったんですけど。
もうね、自分でもどうしてそうなったか分かんないんだけど、
私、ずっと、「コルギ」って韓国の焼き肉のことだと思ってたのね。
思い込んでたのね。

で、職場の後輩たちが、すげぇいい「コルギ」の店あるから!っつーから、まあ、お腹もすいたし、と思って「にーく、にーく」つって付いて行ったら、「コルギ」は「骨気」って書くみたいで、「顔面矯正」のコースの1つだった。
焼き肉の要素、1個もなかった。

で、後輩の手前、「あー、このバージョンのコルギねー」つって、知ってた雰囲気を存分に出したんですけど、正直、寝耳に水で。

したら、奥から出てきたすげぇキレイなエステティシャンのお姉さんが、

「加藤さんの場合、お顔の骨が、だいぶずれていらっしゃいますね。
 こう、右に。右ななめ前に。」

って、挨拶も早々に言われて。これまた、寝耳に水。耳、水攻め。

で、油断した隙に、お姉さんは、おもむろに、私の顎と頬を触りながら
「あーずれてますね。ずれてるずれてる。」つって。

この時ばかりは私の風も、多少、立ったと思う。

でも、キレイなお姉さんは、それこそ柳に風とばかりに優雅な身振り手振りで、
「顎がねー、こう、右に。右、少しななめ前に、こう」
って、もう軽い輪島功一かなってくらいに、私の顎のシャドーをね、披露してくれたよね。顎から黄金の右、少し出てた。

いやいやいや、そんなはずないって。
「右、少しななめ前」って、もうそれ、顎の沙汰じゃない。
そんな道しるべ、顎から出ちゃうことあるー?

つって、半信半疑のまま、コルギをされたんですけど。

どうやらね、出てるらしくて、もう出る杭は打てとばかりに全体重かけて頬骨を押されたんですけど。
私の頬骨の上で蕎麦でも打ち始めるんじゃないかってくらいグイグイされてんですけど。
「加藤さんの場合!ハアハア!頬骨から曲がってらっしゃるので!ハアハア!しっかりやらないと!ハアハア!」つってね、
割と息を荒げて一生懸命やってくれたんですけど。

途中、一生懸命すぎて、なんていうか、矯正されていくのが自分のことのように嬉しくなってくれたんだと思うんですけど、私の手を取りながら
「ほら、ちょっと触って!右のムーミンみたいなところが、だいぶなくなりましたよ!!」
って言われたんですけど、
「あ、ホントだ!!」って勢いで言ったんですけど、
もうね、私の顔にムーミンとしてた部分があったっつーことの衝撃の方が凄くて。

で、まあ、私の荒ぶるムーミンも、なんとかいい位置に祀ったみたいで、コルギが終わり、鏡を見せられたんですけど、
それぞれコルギを受けた後輩たちが「お顔が全体的にちっちゃくなりましたねー」とか、ちやほや言われてる中、
私だけ「少し左に寄せて止めておきましたからー」つって、顎の止め具合いを、軽い路駐みたく言われて帰ってきました。

・・・・。

わかるわー。二郎くんが落ち込んで軽井沢行った気持ちわかるわー。
32年連れ添った顎が、テスト飛行でムーミン谷に行っちゃうとこ見たわー。

で、結局、心の軽井沢、我がワンルームに帰ってきたんですけど、
まあ菜穂子らしき人がいたためしはないわけです。

それでも多少ね、薄壁の向こうから、たまにオジサンの咳込む声が聞こえたりしてね、
その痰がらみをね、唯一無二の菜穂子として、暮らしてきたわけです。


でも二郎くん、聞いてよ、昨日さ、
ひとり、ワンルームの台所でベビベビベイベ言いながら布袋のギターソロよろしく納豆をかき混ぜてたら、
急に玄関のドアがすごい勢いで開いて、隣の家の人が思いっきり自分ちと間違えたみたいで、「ただいまー」つって帰ってきたわけ。

「あ」つって、すぐにいなくなって、ほんと風のような人だったんだけど、
一瞬、なんかね、ちょっと、感動した。

「うん・・!うん!」
つって、もう誰もいないドアにおのずと二度頷いたよね。

二郎くん、私も確かに見たよ、美しい夢を。
美しくも呪われた夢を。


32年、彼氏なし。男女のめくるめく戦いにおいて、まさかのゼロ戦
そろそろ私も「永遠の0」とか書き出してもおかしくない。
丹下か私かってくらいリングサイドで声をはりあげても、風、全く立つ気配なし。
もうクララの馬鹿!意気地なし!

二郎くん、私の飛行技術だって欧米より20年遅れている。
今日も、崖の上の処女。風さえ立ったら、私だって飛びたい。
顎がどんなに放物線を描いても、飛べない豚はただの豚かな。
ガラ空きの両手で必死に計算尺を使っても、人生設計の線ひとつ引けない。

でも、美しさと対極の世界で、自分の腕をタービンのように動かして、かき混ぜにかき混ぜたぬいたあの納豆のように、腐っても、におっても、
糸を引くような旨味っつーのが私にだってあるんだよ。

きっと、どっかに!右、少しななめ前あたりに!

これじゃないよ、駅前留学

友達んとこの2歳児が「えーびぃーしぃーでぃー」とか歌ってたので、
32歳の軽い気持ちで「ハロー」とか話しかけたら、
すげぇネイティブっぽい発語で怒濤のごとく何か言われたのち、
あまりの通じなさに2歳児に多少苛つかれながら、
もう30年なにしてたの?鎖国なの?って目で見られつつ、別れたわけですが。


こないだ、電車のドアの脇に立って乗ってたら、
ドアが閉まるプルルルルーつってるさなかに、
ホームから亡命かってくらいの勢いで猛ダッシュしてきた外国人が、
「ぺらぺらぺらぺらぺらぺら!」ってすげぇ話しかけてきたわけ。

たまたま居合わせた私に、なんかすげぇ聞いてきてるわけ。だいぶプルってるつーのに。

横にどう見てもニューヨーカーみたいなサラリーマンがいるのに、
この二択でよくこっちに来たね!って。
ディズニーをデズニーって言う方に来ちゃったよって。

しかもプルプル下でのペラペラって、もう盆と正月かってくらいのプレッシャーで。
もう月島しずく並に耳をすませば耳をすませば!って思ったんですけど、
むこうもここぞとばかりに、ランボー怒りの みたいな顔で喋ってくっから、
カントリーロード1個も出てこない。

それでも、ランボーがかろうじてなんか「オギコボオギコボ」つってんのに気づいたわけ。なんかコボコボ言ってるーって。

次の瞬間、コボじゃねぇオギクボー!って閃いて。
カントリーロード出てきたー!って。


どうやらランボー 荻窪に行きたいらしいです。


でも、この電車は断じて荻窪に行かないし。
つーか荻窪に行くのはあっちの電車だし。

って英語が一語も出てこないんですけど。

もうランボーもうんともすんとも言わない私にしびれをきらし、敵のアジトかっつーくらい果敢に乗り込んでこようとした。

その時、向かいのホームにちょうど荻窪行きの電車が舞い込んでくるのが見えて、
私は、そのとき奇跡的に「あっちだよー」っつー英語がね、天から舞い降りてきたの。

んで思いっきり「Go awayー!」つったわけ。
荻窪行きの電車を指さして、超ゴアウェったわけ。

で、まあ、ドアは無事閉まって。
なんていうか、やりきった感じになった。
いやー、軽く映画っぽくなかった今?って思って。

でも何か、多少心配になってね、携帯でね調べたわけ。Go awayについて。
で、まあGo awayが「あっちだよ」っつーか「あっちいけ」だったってのを知ったときの慟哭っていうかな。膝から心が折れる感じでね。ランボー・・ごめん。

そう思って生きてきたんですが。



昨日、軽い気持ちで池袋の駅のへんを歩いてたら。
っていうか、池袋から必死に中野に帰ろうとしてたら。

この人々が五万人くらいあふれてんじゃないの?っつーくらいのこの駅前でね、
もーピンポイントで「エキュスキューズミー」って呪文が聞こえたわけ。

いやいや、私じゃない。私じゃない。って念じたんですけど。
もう完全に肩をトントンされてたので。
観念して、暇をもてあました神々くらいの勢いで「私だ」っつー感じで振り向いたんですけど、

ええ、もう、外国の方でした。エベレストにアタックするのかなってくらい、でっかいリュックしょってた。
で、運命感じちゃうくらいのロッキー顔。

んで、これまた、すげぇペラペラペラって。
もう丸腰で受けた英検のヒアリングテストぐらい、1問もわからないわけ。

こっちもね、こないだみたいな悲しい結末は迎えたくないわけで、
早々に「あい きゃん のっと すぴーく いんぐりっしゅ」ってね言いましたよ。
言ったよね。あれ?私、今、言ったよね?

って疑いたくなるくらい、ロッキーが、全然質問をやめないのね。
私の「あい きゃん のっと」に被せる感じで、すげーなんか喋ってる。

こっちも「いやいや、だから、あい きゃん・・」つってんのに、すげー喋ってくる。
同時通訳かっつーくらい被ってくる。

で、根負けしてね、自ずと耳をすませたよね。
したら、奇跡の「SEIBU Line」を聞き取っちゃったわけ。
あれ、この人、なんかセイブライン、セイブライン言ってる。って。
むしろセイブラインとしか言ってないって。

で、私の推理力を結集して、「あ、この人、西武線に乗りたいんだー」ってことに気がついちゃったわけ。じっちゃんの名にかけて!

そしたら丁度、私たちの頭上に案内の看板があって、「JR」はあっちとか「副都心線」はこっちとか書いてあるやつに、「西武線」ももれなくあったのね。
私はもう、無我夢中で、「セイブライン、セイブライン」って指さして教えたわけ。

よし、クリア。と思った。
でも、ロッキーは「?」みたいな感じなわけ。
「いや、だから、これ」って指さすんだけど、「看板見て」って言うんだけど、

なんか、私の指を見ちゃってんのね。
私が1点決めた、みたいな感じになってんのね。

「いや、見るとこ、そこじゃなくて」つって。

え?このジェスチャーって万国共通じゃないの?
私の差し方が悪いの?
指、見てるー!見過ぎー!

で、今度は「上、上」って指さしながら、軽く飛んでみたんだけど。
もう全然、私の指を見てたよね。
こりゃいよいよ、私1点決めたんじゃないかって感じになってんのね。

で5分くらい、頑張ったんだけどね、
私のゴールが決まるばかり。

その問答の中で、あの日の悲しいランボーの顔がよぎる。
ゴアウェ後の悲しい顔が。


んで、もー腹をくくった。
この先、1人のランボーにも悲しい顔をさせたくない。

私は覚悟を決めて「オーケー」つった。
で「トゥゲザー」つった。

一緒に行きましょう、と。
この見ず知らずのロッキーをセイブラインとこまで連れてくことに決めた。


ロッキーはすっげー嬉しそうに、超ペラってきたけど、もう一言一句わかんないです、はい。
あと、言っとくけど、私だってセイブラインなんてもんは行ったことないんだからね!って。言えなかったけど。

で、必死に私も看板だけを頼りに、目を血眼にして西武線の改札に向かってんのに、
ロッキーはロッキーで、場を繋ぐためなのかずっと話しかけてくる。
いや、もう、看板に集中したいです。
間違ってもロッキーと迷いたくないです。

でも池袋なんて道もわかんねーし、ロッキーも何言ってっかわかんねーし、
あれ、ここ母国だよね?って思ったんですけど。

まさかこの私が、外国人と池袋を闊歩する日が来るなんて。

めっちゃ外人と話しながら駅を歩くとか、これ周りから見たら、私相当ニューヨーカーに見えてんじゃないの?
ファンドとか取引してる感じに見えてんじゃないの?って一瞬燃えたんですけど。
嘘みたいだろ。一個もわからないんだぜ?

でも、かろうじて、なんか彼がトルコから来たっぽいことは分かった。
100回くらいトルコって言ってるから。
あと、サッカーがどうとか。

あと、多分なんで池袋いんの?みたいなこと聞かれて、「スタディー?」「ショッピング?」「ワーク?」さあどれ?みたいに聞かれてて、
本当は、もう何て言うか乗り換え方を間違えてたまたま改札の外に出ちゃった感じで、奇跡の手違いだったわけですが、「仕事で」ってカッコイイなって思って、「ワーク」を間違えて

「ウォーク、ウォーク」つってた。はい、歩いてきました。

で、そのあともすげぇ質問が止まらないわけ。ロッキーすげぇ話しかけてくるわけ。
教科書のKenとKumiかっつーくらい話しかけてくる。
もう一個もわかんないけど、こっちも「わかんねー」みたいに水を差すのもアレかなと思って、

「アーハン」

って禁じ手をね、ついに私も繰り出したわけ。

確か昔「英会話はアーハンって言っておけばどうにかなっから」みたいなことを北海道の主婦が言ってたのを思い出して。


したら、「アーハン」すげぇの。
アーハンのパワーすげぇの。

アーハンによって、ロッキーが軽くエイドリアンでも見かけたんじゃない?ってくらい、倍 喋ってきた。
もう同郷を見つけた新橋のサラリーマンのごとく、一気に間合いをつめて喋ってきた。

で、私も、もう後には引けないわけで、必死にアーハンで応戦しましたよ。
これでもかってくらいアーハンアーハンいいましたよ。

したら、もー盛り上がる盛り上がる。
途中ちょっとしたプロ意識も出てきて、アハハーンみたいなアレンジを加えたり、
アハンウフンアハンみたいなリミックスも入れた。


セイブラインがね、案外遠くてね、
看板から1回セイブラインが消えるってハプニングも超えて、
20分くらい歩き回って改札が見える頃には、私たちはまるでアフガンを共に戦い抜いた戦友のようになってた。

まあ、何言ってるかは全然わかんなかったわけだけど。
わかんないなりに、なんかセイブラインが近くなるにつれて、向こうがちょいちょい「モアコミュニケーション、モアコミュニケーション」言ってんなとは思ってた。

で西武改札が見えた時、私はやりきった感でいっぱいで。
これでランボーの借りは返した、と思って。
旅先の親切な日本人として颯爽と去ろうとしたら、なんかすげぇ喋ってきたわけ。

なんかね、「モア コミュニケーション、モア コミュニケーション」言ってるわけ。

いや、もうそれ、さっき散々聞いたし。
って感じで、アーハンアーハン言ってたら、
なんかね、アーハンで乗り越えられない雰囲気出してきてるわけ。

こっちとしては、アーハン以外の引き出しはないわけです。
ノーアーハン ノーライフ。

で、この時になって、初めて「モア」ってなんだっけ?ってことに思い至って。
つーかコミュニケーションってなんだっけ?って思って。

あれ・・・これ・・・、もしかすると・・・、誘われて・・・、
わーーーーー!まさかまさか!って思って。
私、えらいことになったーって思って。

もうね、黒船きたか!ぐらいの衝撃。


ロッキー改めペリーは、もう携帯をがっつりと開きながら、
「モア コミュニケーション、モア コミュニケーション」言って開国を迫ってくっから、

こっちも必死で
「ノーコミュニケーション、ノーコミュニケーション」つって。

したらあっちも なけなしの日本語で
トルコ人ダメ?トルコ人ダメ?」
つってくるので、

「ジャパニーズオンリー!ジャパニーズオンリー!」つって。


したら、いきなりね、腰を引き寄せられたわけです。
この30年あたため続けた、たわわな腰を。

ここで、私の出島がマックスを超えた!!

英語だけでもいっぱいいっぱいなのに、男性にせまられるっていう、
ここ30年くらいなかった現象が今、この池袋で起こったわけですもの。
にわかには信じがたい。
これが、アベノミクス・・?

今の今まで、誰にもテコでも引き寄せられなかった腰がね、まさかのトルコ人に引き寄せられる日がくるなんて。

で、それにしても、腰がね引き寄せられすぎて、
土俵際か?ってくらい引き寄せられすぎて、

ほんと下手したらロッキーの黒船がくっついちゃうんじゃないかって間合いに入っちゃったわけ。
あれ、ここイスタンブール?くらいの間合い。

正直ね、満を持してイスタンブール入りもありかなって気持ちもありました。

こういう時、漫画だったら好きな男子が「おい、何してんだよ」とか割り込んでくるわけですが、32年待てど暮らせどそんな粋な計らいもなく。

つーか、私の好きな男子、昨年めでたく誰かと結婚してたわー。とか思って。
ほんと結婚って、絞め技の一種に登録してもいいくらいだわー。とか思って。
で、「結婚!」って閃いた。

ここはひとまず、結婚してることにしよう。

結婚してたら、もうしょうがないもの。
それだったら、誰も傷つかず、この場面を乗り切れる!と思って。

で、ロッキーに必死でね、言ったのね。


「マジカル!マジカル!」


つって。


もー完全に言い間違えてたー。
マリッジってるつもりだったー。
なんならキメ顔で言ってたよー。
よりによってのマジカル。

確かにね、マジカルだったことは認めます。


で、相手がキョトンとしてるうちに、無事トルコ共和国を出国して、
母国の土を踏んだわけですが。


ほんと帰る途中に、マジカルとマリッジを言い間違えたことに、はたと気がついて、もういっそ火星に行きたいって思った。
でも、このペースで行くと多分、人類初の火星旅行とかでも宇宙人に道聞かれるわ。

黄色張羅。


「大丈夫です大丈夫です。大丈夫ですハイ」
ってジュゲムジュゲムみたく100回くらい言われたので、

そうか。大丈夫なのか。ならば。
そう信じて いざ試着したのですが、
ちょっとも大丈夫じゃありませんでした!




あれは確か夏の終わりくらいだったかな。
なんつーかね、ちょっとした断捨離っていうかね、

トキメク物(残す)とトキメカナイ物(捨てる)を
袋に分けてね、

間違って全部捨てた時がありましてね。

もうね、トキメキを返せつってね。
トキメキっつーか、普段着を返せってね。

で、服が結構なくなったわけなんですが。


この3月まで、割と粘った。
2着の長袖を6か月くらい着まわした。
もう、着まわし術もここまできたら、術うんぬんより度胸の問題で。
まわすっていうか、もう2択ですから。

で、なんか周りもね、薄々感づいて多少のザワツキはあったわけですけど、
コートさえ羽織っておけばオッケーみたいなとこあって。

あと、マフラーなんかで言えば、もう5本あって。なぜか。
親の仇くらいに、これでもかって5本。
首元のオシャレだけは完璧に演出しました。



そんな感じで、だましだましやってきたんですけど、
「まだいける!」っていうこっちの見込みを裏切って、
服サイドの方から白旗が上がりました。
もー参った、と。
ずっとオレのターン、と。

えっと、こちらね、長袖ってね呼ばれてますけどね、
袖はね、確かにちょっと長めだけどね、言っても7分なの。7分丈。
正直ね、秋服なんですよ。秋担当。短いで有名のあの秋。
まさか、冬を越えようとしてくると思わなかった。
見て、ここの生地。テロッテロなの。
半袖にちょっと毛が生えたようなのが秋服なのね。
ほんと雪とかね、朝の冷え込みが3度とかね、
秋でどうにかできる範囲はとっくに越えてっから。とのこと。


いやいやいや、今更、もう3月ですよ。
あと1ヶ月で春ですよ。
君ならできる。
って励ましてきたわけですが。

このまえ電車で、コートの中から飛び出してきた1本のほつれを見つけてね。
まあ、ほつれもするよねって、何も考えず引っぱったらですよ、

あれ・・うそ・・こんなの初めて・・

ってね、もう全然ほつれが途切れないわけです。
引ける引ける。オキアミ漁くらい、引ける。

え、やだ、すごい、大漁。なんつって、漁師気どりで引いてたら、
コートの中で、服がだいぶ変わり果てた姿になってたよね。
丈の短さだけで言えば、クマのプーさんくらい攻めた服になってたよね。


そんなわけで、
この時期にして、長袖を買いにと、しぶしぶデパートに行ったわけです。
ラス1の長袖を着て。


大抵どこに行っても、もれなく気遅れする方なんですけど。
もう挨拶代わりかってくらいササッと気遅れすることができるんですけど、
デパートの洋服売り場なんつったら、
もうちょっとした舞踏会みたいになってるわけですよ。
針のむしろのようにキラキラしてるわけ。

もう「気遅れ」で一曲できそうなくらい気が遅れたんですけど、
とりあえず心を落ち着けてから店に飛び込んでね、
あとはほら画商かなってくらいフムフムみたいな雰囲気出して、
わかってる感じで服見てたわけですけど。

何ていうかな、そんな私への一種の警報なのかな。
店員さんがね、1着でも服を触ろうもんなら、
「そちらいいですよねー」
って言ってくるわけ。

隣を触ろうもんなら、
「そちらも売れてるんですよー」
って言ってくるわけ。

もうね、びっくりして、すぐ服から手を離しちゃうのね。
全然服見れてないのに。
でもやっぱよく見たくて、負けじと頑張って掴んだままでいると、
もう呪文みたいな勢いで、すごい喋ってくるの。唱えてくるの服の良さを。
わわわー!って手を離すと、また一旦止むわけ。

で、また、おそるおそる手を伸ばすと、
「そちらは今、私も着てるんですけどー」
つって。

もう服に手を伸ばすたびに「そちらは」「そちらは」っつーね、
怒涛の「そちラップ」が合いの手なしに続くわけ。
君に感謝とかするまで多分続くわけ。


そちらがそうくるならと、こちらも人見知りの持てる力を全て発動しまして、
この狭い店内で店員さんを巻いてやろうと、
もうね死角へ死角へと回り込んでやったわけです。
それを地の利を生かして逆に追いこまれたりして。

まあ店員さんと私によるちょっとしたボンバーマンみたのを、たしなんだよね。10分くらい。


そんな中、一瞬にして目を奪われた。
荒野に咲いた一輪の花。

(これ、可愛い・・・)


なんか抜群に黄色い!
抜群に黄色いけど、その黄色を帳消しにするくらいの可愛さ。
や、でも、やっぱ黄色いかっ?!

あの黄色が引き寄せると言われた金運ですら、
寄って行くのにちょっとマゴつくくらいの黄色さ。

でも、その黄色がささいなことに思えるくらいの可愛さ。
可愛さ、黄色さ。


私はもう、その服の魅力と若干の黄色さに、とりつかれてしまったのです。


そうして足を止めていると、
チェックメイト!とばかりに店員さんが寄って来て、
「こちら、すっごく黄色いですよねー。黄色お好きなんですかー?」
つったので、

「いや、黄色は好きじゃないんですけど、この服は可愛いなと思って。
 でもやっぱ黄色いですよね」
つったら、

「あ、でも、実際着てみると案外馴染む感じで、そんなに黄色さは目立たないというか」
みたいなことを言ってきたわけです。


もうね、こんなに揺るがない黄色をね、なんかもう、どさくさにまぎれて
「馴染む」つってきたわけですよ。
「目立たない」とすら言っちゃったわけですよ。

じゃあ、着てみましょう、そこまで言うならってなって。

まあ、大丈夫大丈夫言われながら試着室に入ったわけですよ。


で、試着しようとしてたら
「試着される際、フェイスカバーの着用だけお願いします」
みたいなこと言われたのね。

フェイスカバー

これ、女性特有かもしれないけど、
服試着するとき化粧が服につかないように、
なんか薄い布の袋みたいのを頭に被るのね。

でさー、私さ、そんなのね、全然慣れてないから、
もう、言われた時点でね、すぐに被ったわけ。
薄い布を。

したらさ、薄い布だから、薄ーく向こうが見えるわけで、
その中で手探りで黄色を手に取ったわけですよ。

黄色の首のまわりに2個くらいボタンがあったんだけど、
もうそんなのも気づかずにね、
一気に黄色に飛び込んだわけ。夢中で。

もー驚くくらい、頭が出ないわけ。
こんなに出ないのなんて胎児以来っつーくらい出ないわけ。
10分の1も出てないわけ。
産婆だったら一旦お茶しに行くくらい出てない。

こんな出ないことあるー?って思ってね、
もうね、右回り左回りと必死に回転しましたよ。

したら、まあ鼻くらいまで出た。

鼻が出てね、その下が出ないって、
私の凹凸どうなってんの?って思ったんだけど、
20年くらい前に「クッキングパパ」みたいな似顔絵描かれたことがあって、
あいつ絵心ねぇなーって思ってたけど、もうね、20年の月日を経て、実証した。
あいつ、絵心 超あった。容赦はなかったけど。


で、クッキングの部分を埋没させたまま、腕だけでも通そうと思ったんだけど、
もう狭っ!ここも狭っ!

つーか、こんなに狭いことある?
顔と片腕だけで、服ん中きっつきつなの。
とにかく右腕を!と思って伸ばすんだけど、
ゴムゴムの〜とか言ってみたんだけど、

はい、微塵も伸びない。
ファイナルファンタジーサボテンダーみたいな態勢のままファイナルを迎えました。


その間も「お客様、着た感じどうでしょうかー?」
って1000回くらい聞かれてるんですけど、
分刻みで聞かれてるんですけど、

着れてない。
頭すら全部出てない。

昔、このかけ声に踊らされて、試着中に服を破ったことがある私は、
このくらいで動じるわけにはいかないのです。

肩幅がね、多少ね、女子としてはガンダムくらいあるので、
肩さえ何とか収まれば、加藤も行きまーすって、きっと飛びたてっから。
しばしお待ちを。ご歓談を。
そしてどうにか、コックピットまで。

で、どうにか両腕もぐりこませ、必死に頭を捻じって、
最終的にはフライングゲット!みたいな感じで着れたのです。


着てみて、驚いたというか、まあ、そうだよねっていうか、
黄色いです。
むしろ着たほうが、より黄色い。
標識みたい。

あと、まあピッチピッチね。
布越しの肉の躍動感がスゴイ。

着た瞬間から、もう脱ぎたい。

まあ2分くらいは頑張ったよね。
もう肩とかね、とっくにおかしくなってるわけ。
現役を退くレベル。
あと、決定打としてはあれだね、一試合投げ切ったくらいの汗ジミかな。
フェイスカバーをゆうに超えてたもんね。


買いました。
このまま着て行きますつって。

で、上から黄色を覆うようにコート着て、
足早に会計して服屋を立ち去りました。


家に帰ってから、10分くらいかけて、
穴から脱出するみたいにやっとの思いで服を脱いで、
もうショーシャンクの空に!つって黄色を投げ捨てて、
歌いながら寝ました。


そして、今日、服屋にラス1の長袖、置いてきたことに気付いたのです。

この人には指一本クリスマス!

ああ、ついに・・この日が来たのね。

さぁ!私がここでクリスマスを引きとめておくから、みんな、今のうちに逃げて!


私は、大丈夫だから。
みんな!生きて、一月に会おう!
このクリスマスが終わったら、今度こそアイツに思いを告げるんだから。


クッ・・来たな、クリスマス。あなたの相手はこの私よ。
もう仕事だとか漫画だとか、逃げも隠れもしない!


あれ・・?!クリスマスが私を避けてみんなの方に!

みっ、みんな逃げてー!!そっちにクリスマスがっ!!

あ・・あぁあぁあぁ、みんながクリスマスにっ!!!


ヒドイ・・・!ここで指を咥えてクリスマスを見てろっていうの?!

私がクリスマスにできることは何もないの?!

クリスマスに使えないんだったら、こんな力あっても全然意味ないよ!!

32歳で魔法使いになったって・・・クリスマスから、この東京を・・ちっとも・・救えない・・わたしなんて・・。


!!!!
・・あれ・・・、何か・・・私の中から、こみあげてくる力が・・
これは・・っ!!!!



そんな、空前の12月24日ですが、いかがお過ごしですか?
そちらも間違いなくイブでしょうが、こっちも何の手違いか、イブです。
目下、イブ。

世の女性たちはね、こんな夜だものね、何らかの指輪とかね、何らかのネックレスとかね、
「安物だけど」なんつってね、ちゃっかり戴いたりしてっかもしれないけどね、

私も、なんだかんだで32歳の独身女性なわけで、
やっぱりね、それなりの段階を経てきたわけで、

なんていうか、贈り物みたいなものをね、
まあ、どなたからか流行りのモノを、
そっと貰ったりなんかしたわけです。


ノロウイルスね。
安物だけど。


もうー、びっくりしたからー!
「こみあげてくる力が・・・!」とか言って、
マーライオンみたいに吐いてっからー!
ここシンガポールかと思ったからー。

ただ吐くならまだしも、
「まさか・・タカシの・・」
みたいな憧れのつわりごっこを楽しみながら、
急いでトイレに行こうとして、
思いっきりカバンに足を引っ掛けて、転びながら吐いたから。


もうね、初めての体験なんだけどね、転びながら吐くとね、
遠心力でゲロが口から全然出ていかないの。
吐いてるのに、巣立たないの。

かろうじて若干、先に飛び出した分も空中でキャッチするみたいな、
イチローか私か、みたいな まさかの捕球を見せたあと、

床に手をついた衝撃で、レーザービームみたいに全部吐いた。
巨神兵かっつーの。

球筋だけはね、まさにイチロー
思いっきりホーム(家)に突き刺さってた。
台所の前で転んだのに、玄関まで一直線に伸びてたからね。お昼の献立が。


まあ、クリスマスにこの荒業。
ざっと5分くらい泣いて起き上ったんですけど、
もうね、目を疑った。
これが34丁目の奇跡!?


目の前が、びっくりするくらい輝いてんの。
突然のライトアップ。
完全なるサプライズ。


昼に、これでもかってくらいイクラ丼を食べたんですけど。
シャケかな?ってくらいお腹いっぱいイクラ丼を食べたんですけど。

そのイクラが、全部出てた。
北海道産の大粒のイクラがね、玄関までの道を彩ってんだけど、
それが、もうスワロフスキーみたいに輝いてるわけ。


今日ね、多分たくさんのカップルたちが色んな場所で、
素敵なイルミネーションを見てると思うんだけど、
この瞬間の、加藤イクラリエも相当輝いてた。
東京ウォーカーに載ってもいい。


で、まあ軽く私が産卵したみたいになったわけで、
ほんと苦節32年、名実ともに処女懐妊なので、
絶対このイクラ、キリストになると思うんだ。

ほんとメリークリスマス。


で、まあそんなイクラリエを見ながら気付いたんですけどね、
これ、どうやらノロと違うなって。


えっと、長年愛用してるうちの冷蔵庫なんですけどね、
まあ、もしかしたらだけど、いや、ほんと、わかんないんだけど、
これって、常温じゃねぇ・・?って思う瞬間が何度かあって、

でも何らかの「ブーン」みたいな音はしてたので、
やってるよ!みたいなメッセージ性は感じてたわけで、

心身滅すれば火もまた涼し!と思って使ってきてたんだけど、
ほんとね、冷蔵庫ってメッセージ性とかじゃなかった。

で、まあ、先入観なしで見たら、むしろ部屋より冷蔵庫の中の方がちょっと暖かい。

で、クリスマスに外に出ないために買い込んだ食材が、全部腐ってた。
キリスト産んでる場合じゃなかった。


まあ、そんなわけで、先ほど夕飯どきに、一か八かで、家でパーティーしてるふりしながら、
ピッツァを頼んでみたわけですが、

もう、ほんと、あの腐りかけの巨神兵すら、崩壊する際に2回のビームを吐いたのをすっかり忘れてまして、
ピザ屋のお兄さん到着した時、財布出しながら、突然もっかいイクラを吐きました。
まさかのアンコール。

トナカイの角つけた細っそいお兄さんと一緒に、加藤イクラリエ見た。

イクラリエっつーか、もうなけなしの7粒くらいしか出てこなくて、
ちっちゃいドラゴンボールを、細っそい神龍の前に出した感じになったんですけど。


まあ、ピザが食べたいっていう小さな願いは叶ったよね。

加藤バガボンド!

私、私の書く文章を読んだ上で私のことをイイって言ってくれる男性がいてくれたとしたら、結婚してしまうかもしれない。


バガボンドの26巻、読んだ?

すげぇから。

最初から最後まで、武蔵が吉岡一門の70人を斬り捨てていく様が延々と描かれています。

ほんと、金太郎飴のように、26巻の最初から最後まで、
70人を1人ずつ切り落としていく様がね、描かれてます。

3分クッキングみたいにね、「はいじゃあこれから70人を切り落としていくわけですね〜。で、こちらに70人を切り落としたものがあるわけですが〜」って冷蔵庫から何らかの、寝かせておいた70人みたいなものがね、出てこないの。

武蔵がね、うりゃー!とか刀を振り上げて、そこで暗転、チュンチュン・・チュンチュン・・とか鳥の声で目覚めたりしないの。


とにかく、斬る、斬る、斬る、斬る。
ほとんど経過の省略無し。

ほんと、丸ごと一巻、斬りっぱなし。


もうね、ばっさばっさ。

ばっさばっさ。

で、だんだん武蔵も疲れてきてさ、
余計なこと考えたり、
相手も段々、死に物狂いになってきて、
大勢で攻めてきたりすんの。
もうね、死闘なの。すごいの。


わかる!

わかるよ!

私、武蔵の気持ち、わかる。


もうね、最近すごいもん。
私の周りも。

ばっさばっさ。
ばっさばっさ。

結婚すんの。


結婚しても、結婚しても、どんどん出てきて、「結婚するの」とか言うの。
同世代が終わったかと思うと、後輩までがちゃっかり「結婚します」とか言うの。
こちらもこちらで、一巻まるごと結婚しっぱなし。

最初は、そういうもんかなぁ〜とか思ってね、ご祝儀も包みました。

でもね、もう、こう次から次へとね、結婚結婚湧き出てくっと、
おめぇら、そうそうご祝儀とかもらえると思うな!
って気になってくる。

余興とか、ほんと、タダでやると思うなよ。
って気になる。

受付と余興やって、その上、お金払ってんの。
お金はらって、友達の一番幸せな姿、見せてもらってんの。

おめでとーとか言ってね、笑顔で金はらってんの。
おめでたいのは、むしろ私じゃない?

どっちかっつーと、こっちが払って欲しい。
あいつ結婚すんのに!
あたし結婚しねぇのに!
老後の金まで、むしり取られて。


なぜ人を斬るのか。
なぜご祝儀を払うのか。

同じ虚しさをね、武蔵も抱えてんじゃないかなぁって。
私こそ現代に生きる武蔵なんじゃないのかなぁって。

ほんと、もうね、この際だから、私が70人の花嫁たち相手にばっさばっさとご祝儀払ってく様子も、井上雄彦 漫画にしてくれないかなぁ。

ご祝儀、出す瞬間の間合いとか、描ききって欲しいなあ。
3万にするか5万にするか、ド迫力の駆け引きなんかも交えてさー。


なんて思いながら、日々剣をふるってたら、
ちゃっかり佐藤が結婚してまして!


日曜日の昼下がりに、
「はいね、死なないで聞いてね。気を確かにね。佐藤が結婚してた!」
って友達からの電話。

私は「オーケーオーケー」言ってたわけですが。
ちっともオーケーじゃねぇ!

佐藤つったら、私、武蔵にとったら、小次郎みたいなもんで。
もうね、10年、大好きで大好きで、目に入れても痛くない。
そんなあの子がね、結婚してたわけです。


うわああああああって思って、バガボンドの最新刊(34巻)を買いに行きました。


34巻。読んだ?

表紙を見てね、驚いた。



その顔ね、私も今、丁度してたよね。

で、まあ、ページを めくれどもめくれども、武蔵と小次郎、全然出会ってなかった。
出会う予兆すらなかった。

そっちも?ってなるよね。

武蔵、わかるよー。
人を斬りながら、自分に剣を突き立てているような心地がする武蔵の気持ちわかるよー。

私だって、70人のご祝儀をばっさばっさと払って、もうね、満身創痍なわけです。
なのに、いまだにチョロチョロとね、70人の仇とばかりに結婚する輩が現れては、ご祝儀ですよ。

早く・・小次郎に会いたい。
早く小次郎と巌流島(ワイハ)で・・式を挙げたい。

なのに、34巻にして、全く会えてない武蔵のように、
32歳にして、全く会えてないわけです。こちらも。
小次郎らしき人影、まるで無し。

10年間、小次郎だと信じてきた佐藤は、ちゃっかり常夏の巌流島(ワイハ)へ。


「疲れた・・地べたまで落ちたな。
 いや・・そうじゃない。戻ったんだ地(つち)に。
 何も持たないという、はじめの姿に」(バガボンド 34巻「♯旅路の果てに」より抜粋)


それでも、私は思うわけ。


同じ天気、同じ言語で、同じ通貨。
月がきれいだって、100年言ってやる。
今日半泣きでコンビニに駆け込んで、バガボンドを買って私が払った千円が、いつか佐藤の買い物のおつりになって、佐藤の手に渡る日もあるかもしれない。

10年好きで、通算5回告白、通算6回振られた。
気持ち多めに振られてる。
結婚されたっつーのに、気が付いたら、バガボンドを読んでた。

それだって、
「天は笑いはしない。ただ微笑んで眺めている。」(バガボンド 34巻「♯あめつち」より抜粋)


って言うから、井上雄彦はやっぱ、私を描くべき。