26年の英知をもってして、タンポンに挑戦してみたんですけど、
血で血を洗うような攻防の末の、解散。
音楽性の違いもあったけど、
一番は、なんつーか、お互い出会うのが早すぎた。
とにかく、年始におもっきり加藤家親族一同で
温泉行くことになったんですが、
もうね、ちっともタンポンの野郎 言うコト聞かなくって、
とりあえず母親に電話した。
『よ。』
『はい』
『もう、用意とかできちゃった?』
『用意っていうか、もう待ち合わせ場所にみんな着いてるわよ、
あんた何してんの!』
『なんつーか、体調管理も実力のうちっつーのかな、
生理、来ちゃったんだけど…』
『タンポン入れればいいでしょうが!』
『ね。入れればいいよね。』
ほらね。
やっぱりね。
そんな予感がしてた。
入って当たり前みたいな。
入るのが常識みたいな。
むしろ、おめぇ入ってないの?みたいな。
電話、切った。
入るものなんだ。やっぱ。
あたしにとっては、
「玉に当たった3番ボールを、
7番ボールに当ててサイドポケットに入れます」
っつーくらいの微調整と根気強さ、そして1パーセントの運、
そんなもんが左右する世界で、
来年あたり堺正章がコレやったらいいんじゃないかな
っつーくらいの芸当だったんだけど。曲芸。
ってわけで、まぁ、温泉、行くことにしました。
入れてるフリして。
「生理じゃないフリ」じゃなくて、
「生理だけどタンポン入れてるから大丈夫」なフリして、
温泉、行くことにしました。
ほんと、演技に幅が出すぎ。
去年の暮れ。
私は祖父ちゃんの13回忌で、少々酒を嗜(たしな)んで、
嗜んでっつーか、楽しんで、
加藤家もいよいよ世代交代の時がきた
これからは孫の代が引っ張っていく
まずはみんなで温泉いくっぞ!
みたいな宣言をね、
言ったかなぁ…あたし…。
弟に聞くと、
「姉ちゃん、
加藤家の冠婚葬祭は私が仕切っからー!つってたよ」
さーてと、ネットで検索かけちゃおうかなー。
宿をさ、決めなきゃね。
サクっと決めてさ、サクっと終わらせちゃおう。
ITを駆使しちゃおう。
ネットに繋ぎながら、さっそく田舎に電話をした。
受話器を片手に、宿検索で「温泉」と入れてみた。
したら、まぁ余裕なわけ。
ヒット数が手に余るわけ。
ウハウハとは、まさにこのこと。
んで、まぁスマートな感じで参加者人数を聞いてみた。
「何人くらいこれっかね?」
「やーいまんとこ28人くらいだぁー」
何、その十の位。
なまりすぎてて、聞き間違えた?
「28」
も一回言われた。
ちょっとしたクラス規模。
え、加藤家ってそんな ご盛んな感じでしたっけ?
ちょっと気を許した隙に、すげぇひ孫とか産まれちゃった?
「・・・・多くない?」
「いぃーやぁー、隣んとこのぉー、
光子さんちにこの話さしたっけぇ、
是非行きたいって言うもんでぇー」
「え?親戚っつー話じゃなかったっけ?」
「大丈夫だー、苗字 加藤だからぁー」
そんなこと言ったら、そこの通り、一帯全部「加藤」じゃん。
・・・・28・・・か・・。
ネットの宿探しの検索窓にとりあえず、人数28と打ち込んだ。
ヒットする宿数が、愕然と減った。
クモの子散らす感じになった。
「あとな、久子ばあちゃんも行きたいって言ってんだべぇ」
「え?久子さんって寝たきりだよね?」
「温泉さ、つかれば治っからってぇ」
治っかな…?
とりあえず検索窓に車椅子って入れた。
うわ、断然 心許ないヒット数になった。
「あと、ペットがさぁー」
「あー、それは知ってるから、最初っからペットOKの宿を探してんだー」
「・・・・。」
「・・・・?」
「えっとな」
「・・・何?」
「…チャボなんだけど…」
チャボ————————————!
チャボっちゃった———————?
「…チャボは、置いて行きなよ」
「具合が悪くって、置いてけない」
試しに「チャボ」って入れてみた。
0件になった。
「わかった、犬ってことにしよう」
私は、半ば なし崩しな感じで宿を決め、
予約をした。
宿の人、電話したら結構びびってた。
これで、犬だと思ってものがチャボだったら、
もっとびびるだろうなー。
しつけとかトイレは大丈夫ですかって聞かれて、
大丈夫って答えたけど、
トイレどころか、朝とかタマゴ産むかもしれない。
いやー、犬だとばっかり思ってたんですけどー
で、通そう。
で、そんな感じで、今日に至るわけで。
28人。うちの家族を含め32人でチャーターしたバスが旅館に着くと、
まず私は弟と3つのゲージを持って、
備えつきのペット用の宿に向かった。
チワワとミニチュアダックスとチャボを持って。
チャボのゲージは弟に持たせた。
明かに、弟のゲージの中から、鳥っぽい足音がする。
たまに羽ばたこうとしてる。
不安になった弟の
「姉ちゃん、ちゃんと宿の人にチャボって言ったの?」
って質問は無視。
「俺、やだよ。姉ちゃん、チャボ持ってよ」
って要望も無視。
カウンターにゲージを上げると、
受付のおねぇさんが微笑みながら、
チワワ見て、ミニチュアダックス見て、
で、弟の持ってきたゲージのチャボ見て、
固まった。
すげぇ凝視して、んで、私たちを凝視して、
「これ、鳥ですよね・・・」
って言うので、
あれ〜鳥だったっけ?
犬じゃなかったっけ?あれ〜。
みたいな顔で、ゲージを覗きこんだけど、
鳥です。間違いありません。
コッコ コッコ言ってる。
そこから、軽く交渉してみたんですけど、
半ば予想通り、エレガントな感じで決裂して、
車の中で面倒みることになり、一件落着。
で、まぁもう一つの問題の入浴なんですけど、
大腿と大腿を擦り合わせるようにして、
なんとか しのぎを削って、
危ない!
と思ったら、すぐに水をかけて誤魔化す作戦に出ました。
あとは、タオルで股間を集中的に隠しました。
これが、なんつーか、案外いい感じで、
自分が生理だってことも軽く忘れてしまいそうだな、
なんて思ってたんですけど。
丁度その頃、目の前で、
流れるプールのように水流がある温泉に、
70くらいのばあちゃんと80くらいのばあちゃんに、
両脇抱えられて入浴した久子ばあちゃんが、
思いっきり水流に3人流されてくのを見まして、
そのチャレンジ精神に、
3人を救助した頃には、
すっかり自分が生理だったこと、忘れてました。
んで、サウナ入って、気づいた時には、
下のマットが、
あれ、これ何かの事件現場?
っつーくらいの血痕で、
立ち上がるに立ち上がれず、
30分くらい入ってたんですけど、
知ってる?サウナって30分くらい入ると、髪の毛こげるんだね。
温泉入って潤うはずが、出てきた頃には、
あれ?家でボヤでも出した?
みたいな風情があった。
夜は夜で、じゃんけんで見事に負けて、
チャボ係に任命され、バスの中で夜を越しました。
朝はチャボの雄たけびで、4時くらいに目覚めました。
チャボって立派なニワトリの一種なんだね。
帰りのバスにて、
久子ばあちゃんも、他のばあちゃん達も、
妙に少女のように艶めいてたけど、
私は多分10歳くらい、ゆうに老け込んだ。
年金とか、明日くらいからもらえる。