インフる

1人で一日中 家にいて、マンガ読んでゴロゴロしてたら、
インフルエンザになった。


えー。
インフルエンザって、そういうルールだっけ?
もっと人から人へ、みたいなニュアンスの病気じゃなかったっけー?

って思ったんですけど、

歓迎します。
ようこそ。

ひそかにね、一度は、なりたいと思ってた。
もうね、大人だもの。
そろそろ私もインフルエンザの おめがねにね、かなう年頃かなって。

しかもね、インフルエンザになると5日間、仕事が休めるんです。
これはね、インフルエンザになるっきゃないって思ってた。

待ちに待ったインフルエンザ。今年流行りのA型ですか?


奇遇ですね、私も実はA型なんです。
お互い、ちょっと人見知り。

もうね、人から人への感染なんて大胆なこと、まずね、できない。
インフルのやつも、添い遂げるつもりで、うちの門を叩いたんだと思う。


だからこそのウェルカム。
よく来た、と。
自分の家だと思ってー、つってね温かく出迎えました。
インフルエンザが〜加藤はいねに〜
みたいなナレーション準備はできてた。


でもね、私だって看護師歴6年。
ちょっと咳き込んだぐらいじゃ「インフル」「インフル」
はしゃぐ時代は過ぎた。

お出かけというお出かけに誘われること無く、
昨日今日と誰とも会話した覚えもないこの私が、
本当にインフルエンザの座を もぎ取ることができたのか。

それを確かめる方法はただ一つ。
インフルエンザ判定検査をうける。


もうね、この検査が、すげぇの。
まずね、血を採って〜とかカッコイイやつじゃないのね。

血をとればね、大抵のことは判明しちゃうこの現代社会において、
この検査はね、鼻の穴にね、綿棒を つっこむの。


この時代、あえての、鼻。


今、そこフューチャーする意味ある?
人間の体の中で、一番、ボサッとしてる部位ですけど。

正直、私がインフルエンザかどうかを、鼻に決められたくねぇよ。

インフルエンザもね、よりによって、なんでそこ居ちゃったの?って。
他に行くとこなかったのー?ってことなんです。

そこにいるなら、他んとこにもいるんじゃねぇーの?とか
ノドとか怪しんじゃねぇーの?とかね、
言いたいことは山々なんですけど、

もうね、インフルといえば、鼻です。
鼻綿棒で白黒つける。


で、まあ鼻をやる他に、
インフルエンザの栄冠に輝いた人はいないので、
私もインフルエンザの称号を戴くために、
鼻綿棒の試練を受けに近くの病院に行ってきました。満を持して。


んで、そこの先生が
「あー、症状はインフルエンザっぽいね〜」っつーから、
やはり、と。
来るときが来た、と。

「じゃあ、ちょっとインフルエンザの検査してみますから〜」っつって、
横の部屋みたいなとこに呼ばれたんですけど、

まぁ、鼻の覚悟はできてた。

でもねー、なんつーかなー、鼻担当っぽい看護婦さんがねー、
もうね、見たかんじ、ワイルド。

関ヶ原あたり参加してたんじゃないかな?ってくらいね、
躍動感があった。

ほんとね、見た目で判断とかね、絶対ダメなんですけどね、
びっくりするくらいのオクレ毛。
オクレ毛に続くオクレ毛。

そういう私もね、なんせ朝からの高熱でね、
多少のオクレ毛は やむなしな感じだったんですけど、
彼女はね、360度オクレ毛。
全部オクレ毛に持ってかれてた。

あと、なんかねー、カルテをね、めくる手つきがね、完全にピリピリしてるのと、
二回に一回くらいの溜息がね、すごい。

もうね、まずね、そっちから行こう、と。
そっちの悩みから聞こっか、と。
そっちの問題をまず解決して、一息ついたとこで、鼻に綿棒入れられたい。
打ち解けた上で、鼻のステップに移りたい。

だってね、私もね、こう見えて医療人の端くれ。
インフルエンザの検査とかね、すげぇ見てきた。
なんなら、鼻綿棒を自由自在に操ってきた。
だから、あいつのことは、私よく知ってる。

綿棒綿棒言ってるけど、結構ね、あいつ、綿 少なめ。
飾り程度。

ほぼね、棒なの。知ってんの。

しかもね、棒がね、完全に長すぎ。
指揮棒くらいある。

その長さをエンジョイできる鼻は無いよ、と。
どこまで遠くにインフルエンザ探しに行く気なの?と。

そんなんをね、私の身の丈短めの だんごっ鼻で無茶されたら、
まさかの大惨事ですよ。


でも、まあ、来るときは来る。
丸イスみたいのに座らされて、
目をね、ぱちくりさせて待ってたんですけど、

その看護婦さんがインフルエンザの検査のキットを用意して、
さあ、いざ!ってとこで、電話がなったの。

その電話がね、ちょっとしたイザコザ。

「えー、なんでー!朝確認してたでしょー!」みたいな。
「ちょっと、こっち無理だからね!」みたいな。
「そんなの、そっちでどうにかしてもらってよ」みたいな。

んで、「もう、いいです!」ガチャン!つって電話きって、
5秒くらいシーンとしたあとに、

「じゃあ、入れますねー」

って、もう、絶対、このタイミングじゃないんですよ。

ほんとね、私に5分 いただきたい。
朝ね、確認したと、この人は、絶対に朝、確認する人だよ、と。
言ってあげたい。

そこの わだかまりを解いて、お互い、穏やかな気持ちでね、
向かい合いたい。

でもね、もう綿棒はね迫ってくるわけです。

もっとね、違ったかたちでね、出会いたかった。



いやー。
奏でた。
悲鳴を。
久々にね、ギブアップした。
何回もね、「ギブしてるよー」って看護師さんの肩たたいた。

医療現場にもね、レフリーの必要性あった。


かたや私も、「動かないでー!」って6回くらい言われました。
ほんと、自分でも、釣り上げられた魚かなってくらい動いた。

もうちょっと我慢できると思ってた。
でも考えてみたら、鼻を我慢させたことなんて無かった。

鼻なんて、普段、なんのアクシデントにも見舞われてなかったので、
打たれ弱さが半端無かった。

でもさー、彼女の綿棒の追跡がすごくて!
鼻ん中で、カーチェイスになってた。

もうね、そこもう鼻通り過ぎちゃったよ、ってとこまで入ってきてた。
鼻の国境、軽く越えてた。越境だよ。


で、まぁ結果インフルエンザですらなくてね、
「ちょっとした風邪」みたいな言われようで帰ってきたんだけど、

こんだけ鼻グリグリしといて、「ちょっとした」とかね、ないから。

そんな言葉では片付けられないくらいのね風邪だったと、
むしろちょっとしたインフルエンザと言っても過言じゃないんじゃないかと、

思って婦長に連絡したんですけど、
仕事には、ちゃんと来て下さい、とのこと。
やはり、と。