友達んとこの2歳児が「えーびぃーしぃーでぃー」とか歌ってたので、
32歳の軽い気持ちで「ハロー」とか話しかけたら、
すげぇネイティブっぽい発語で怒濤のごとく何か言われたのち、
あまりの通じなさに2歳児に多少苛つかれながら、
もう30年なにしてたの?鎖国なの?って目で見られつつ、別れたわけですが。
こないだ、電車のドアの脇に立って乗ってたら、
ドアが閉まるプルルルルーつってるさなかに、
ホームから亡命かってくらいの勢いで猛ダッシュしてきた外国人が、
「ぺらぺらぺらぺらぺらぺら!」ってすげぇ話しかけてきたわけ。
たまたま居合わせた私に、なんかすげぇ聞いてきてるわけ。だいぶプルってるつーのに。
横にどう見てもニューヨーカーみたいなサラリーマンがいるのに、
この二択でよくこっちに来たね!って。
ディズニーをデズニーって言う方に来ちゃったよって。
しかもプルプル下でのペラペラって、もう盆と正月かってくらいのプレッシャーで。
もう月島しずく並に耳をすませば!耳をすませば!って思ったんですけど、
むこうもここぞとばかりに、ランボー怒りの みたいな顔で喋ってくっから、
カントリーロード1個も出てこない。
それでも、ランボーがかろうじてなんか「オギコボオギコボ」つってんのに気づいたわけ。なんかコボコボ言ってるーって。
次の瞬間、コボじゃねぇオギクボー!って閃いて。
超カントリーロード出てきたー!って。
でも、この電車は断じて荻窪に行かないし。
つーか荻窪に行くのはあっちの電車だし。
って英語が一語も出てこないんですけど。
もうランボーもうんともすんとも言わない私にしびれをきらし、敵のアジトかっつーくらい果敢に乗り込んでこようとした。
その時、向かいのホームにちょうど荻窪行きの電車が舞い込んでくるのが見えて、
私は、そのとき奇跡的に「あっちだよー」っつー英語がね、天から舞い降りてきたの。
んで思いっきり「Go awayー!」つったわけ。
荻窪行きの電車を指さして、超ゴアウェったわけ。
で、まあ、ドアは無事閉まって。
なんていうか、やりきった感じになった。
いやー、軽く映画っぽくなかった今?って思って。
でも何か、多少心配になってね、携帯でね調べたわけ。Go awayについて。
で、まあGo awayが「あっちだよ」っつーか「あっちいけ」だったってのを知ったときの慟哭っていうかな。膝から心が折れる感じでね。ランボー・・ごめん。
そう思って生きてきたんですが。
昨日、軽い気持ちで池袋の駅のへんを歩いてたら。
っていうか、池袋から必死に中野に帰ろうとしてたら。
この人々が五万人くらいあふれてんじゃないの?っつーくらいのこの駅前でね、
もーピンポイントで「エキュスキューズミー」って呪文が聞こえたわけ。
いやいや、私じゃない。私じゃない。って念じたんですけど。
もう完全に肩をトントンされてたので。
観念して、暇をもてあました神々くらいの勢いで「私だ」っつー感じで振り向いたんですけど、
ええ、もう、外国の方でした。エベレストにアタックするのかなってくらい、でっかいリュックしょってた。
で、運命感じちゃうくらいのロッキー顔。
んで、これまた、すげぇペラペラペラって。
もう丸腰で受けた英検のヒアリングテストぐらい、1問もわからないわけ。
こっちもね、こないだみたいな悲しい結末は迎えたくないわけで、
早々に「あい きゃん のっと すぴーく いんぐりっしゅ」ってね言いましたよ。
言ったよね。あれ?私、今、言ったよね?
って疑いたくなるくらい、ロッキーが、全然質問をやめないのね。
私の「あい きゃん のっと」に被せる感じで、すげーなんか喋ってる。
こっちも「いやいや、だから、あい きゃん・・」つってんのに、すげー喋ってくる。
同時通訳かっつーくらい被ってくる。
で、根負けしてね、自ずと耳をすませたよね。
したら、奇跡の「SEIBU Line」を聞き取っちゃったわけ。
あれ、この人、なんかセイブライン、セイブライン言ってる。って。
むしろセイブラインとしか言ってないって。
で、私の推理力を結集して、「あ、この人、西武線に乗りたいんだー」ってことに気がついちゃったわけ。じっちゃんの名にかけて!
そしたら丁度、私たちの頭上に案内の看板があって、「JR」はあっちとか「副都心線」はこっちとか書いてあるやつに、「西武線」ももれなくあったのね。
私はもう、無我夢中で、「セイブライン、セイブライン」って指さして教えたわけ。
よし、クリア。と思った。
でも、ロッキーは「?」みたいな感じなわけ。
「いや、だから、これ」って指さすんだけど、「看板見て」って言うんだけど、
なんか、私の指を見ちゃってんのね。
私が1点決めた、みたいな感じになってんのね。
「いや、見るとこ、そこじゃなくて」つって。
え?このジェスチャーって万国共通じゃないの?
私の差し方が悪いの?
指、見てるー!見過ぎー!
で、今度は「上、上」って指さしながら、軽く飛んでみたんだけど。
もう全然、私の指を見てたよね。
こりゃいよいよ、私1点決めたんじゃないかって感じになってんのね。
で5分くらい、頑張ったんだけどね、
私のゴールが決まるばかり。
その問答の中で、あの日の悲しいランボーの顔がよぎる。
ゴアウェ後の悲しい顔が。
んで、もー腹をくくった。
この先、1人のランボーにも悲しい顔をさせたくない。
私は覚悟を決めて「オーケー」つった。
で「トゥゲザー」つった。
一緒に行きましょう、と。
この見ず知らずのロッキーをセイブラインとこまで連れてくことに決めた。
ロッキーはすっげー嬉しそうに、超ペラってきたけど、もう一言一句わかんないです、はい。
あと、言っとくけど、私だってセイブラインなんてもんは行ったことないんだからね!って。言えなかったけど。
で、必死に私も看板だけを頼りに、目を血眼にして西武線の改札に向かってんのに、
ロッキーはロッキーで、場を繋ぐためなのかずっと話しかけてくる。
いや、もう、看板に集中したいです。
間違ってもロッキーと迷いたくないです。
でも池袋なんて道もわかんねーし、ロッキーも何言ってっかわかんねーし、
あれ、ここ母国だよね?って思ったんですけど。
まさかこの私が、外国人と池袋を闊歩する日が来るなんて。
めっちゃ外人と話しながら駅を歩くとか、これ周りから見たら、私相当ニューヨーカーに見えてんじゃないの?
ファンドとか取引してる感じに見えてんじゃないの?って一瞬燃えたんですけど。
嘘みたいだろ。一個もわからないんだぜ?
でも、かろうじて、なんか彼がトルコから来たっぽいことは分かった。
100回くらいトルコって言ってるから。
あと、サッカーがどうとか。
あと、多分なんで池袋いんの?みたいなこと聞かれて、「スタディー?」「ショッピング?」「ワーク?」さあどれ?みたいに聞かれてて、
本当は、もう何て言うか乗り換え方を間違えてたまたま改札の外に出ちゃった感じで、奇跡の手違いだったわけですが、「仕事で」ってカッコイイなって思って、「ワーク」を間違えて
「ウォーク、ウォーク」つってた。はい、歩いてきました。
で、そのあともすげぇ質問が止まらないわけ。ロッキーすげぇ話しかけてくるわけ。
教科書のKenとKumiかっつーくらい話しかけてくる。
もう一個もわかんないけど、こっちも「わかんねー」みたいに水を差すのもアレかなと思って、
「アーハン」
って禁じ手をね、ついに私も繰り出したわけ。
確か昔「英会話はアーハンって言っておけばどうにかなっから」みたいなことを北海道の主婦が言ってたのを思い出して。
したら、「アーハン」すげぇの。
アーハンのパワーすげぇの。
アーハンによって、ロッキーが軽くエイドリアンでも見かけたんじゃない?ってくらい、倍 喋ってきた。
もう同郷を見つけた新橋のサラリーマンのごとく、一気に間合いをつめて喋ってきた。
で、私も、もう後には引けないわけで、必死にアーハンで応戦しましたよ。
これでもかってくらいアーハンアーハンいいましたよ。
したら、もー盛り上がる盛り上がる。
途中ちょっとしたプロ意識も出てきて、アハハーンみたいなアレンジを加えたり、
アハンウフンアハンみたいなリミックスも入れた。
セイブラインがね、案外遠くてね、
看板から1回セイブラインが消えるってハプニングも超えて、
20分くらい歩き回って改札が見える頃には、私たちはまるでアフガンを共に戦い抜いた戦友のようになってた。
まあ、何言ってるかは全然わかんなかったわけだけど。
わかんないなりに、なんかセイブラインが近くなるにつれて、向こうがちょいちょい「モアコミュニケーション、モアコミュニケーション」言ってんなとは思ってた。
で西武改札が見えた時、私はやりきった感でいっぱいで。
これでランボーの借りは返した、と思って。
旅先の親切な日本人として颯爽と去ろうとしたら、なんかすげぇ喋ってきたわけ。
なんかね、「モア コミュニケーション、モア コミュニケーション」言ってるわけ。
いや、もうそれ、さっき散々聞いたし。
って感じで、アーハンアーハン言ってたら、
なんかね、アーハンで乗り越えられない雰囲気出してきてるわけ。
こっちとしては、アーハン以外の引き出しはないわけです。
ノーアーハン ノーライフ。
で、この時になって、初めて「モア」ってなんだっけ?ってことに思い至って。
つーかコミュニケーションってなんだっけ?って思って。
あれ・・・これ・・・、もしかすると・・・、誘われて・・・、
わーーーーー!まさかまさか!って思って。
私、えらいことになったーって思って。
もうね、黒船きたか!ぐらいの衝撃。
ロッキー改めペリーは、もう携帯をがっつりと開きながら、
「モア コミュニケーション、モア コミュニケーション」言って開国を迫ってくっから、
こっちも必死で
「ノーコミュニケーション、ノーコミュニケーション」つって。
したらあっちも なけなしの日本語で
「トルコ人ダメ?トルコ人ダメ?」
つってくるので、
「ジャパニーズオンリー!ジャパニーズオンリー!」つって。
したら、いきなりね、腰を引き寄せられたわけです。
この30年あたため続けた、たわわな腰を。
ここで、私の出島がマックスを超えた!!
英語だけでもいっぱいいっぱいなのに、男性にせまられるっていう、
ここ30年くらいなかった現象が今、この池袋で起こったわけですもの。
にわかには信じがたい。
これが、アベノミクス・・?
今の今まで、誰にもテコでも引き寄せられなかった腰がね、まさかのトルコ人に引き寄せられる日がくるなんて。
で、それにしても、腰がね引き寄せられすぎて、
土俵際か?ってくらい引き寄せられすぎて、
ほんと下手したらロッキーの黒船がくっついちゃうんじゃないかって間合いに入っちゃったわけ。
あれ、ここイスタンブール?くらいの間合い。
正直ね、満を持してイスタンブール入りもありかなって気持ちもありました。
こういう時、漫画だったら好きな男子が「おい、何してんだよ」とか割り込んでくるわけですが、32年待てど暮らせどそんな粋な計らいもなく。
つーか、私の好きな男子、昨年めでたく誰かと結婚してたわー。とか思って。
ほんと結婚って、絞め技の一種に登録してもいいくらいだわー。とか思って。
で、「結婚!」って閃いた。
ここはひとまず、結婚してることにしよう。
結婚してたら、もうしょうがないもの。
それだったら、誰も傷つかず、この場面を乗り切れる!と思って。
で、ロッキーに必死でね、言ったのね。
「マジカル!マジカル!」
つって。
もー完全に言い間違えてたー。
マリッジってるつもりだったー。
なんならキメ顔で言ってたよー。
よりによってのマジカル。
確かにね、マジカルだったことは認めます。
で、相手がキョトンとしてるうちに、無事トルコ共和国を出国して、
母国の土を踏んだわけですが。
ほんと帰る途中に、マジカルとマリッジを言い間違えたことに、はたと気がついて、もういっそ火星に行きたいって思った。
でも、このペースで行くと多分、人類初の火星旅行とかでも宇宙人に道聞かれるわ。