桃色苦労婆Z

34歳になりました。

この1年。

一大決心で挑んだ婦人科検診で、このまま太ったら嫌われますよっていう婦人関係ない診断を下され、
露出狂にあった話をしたら、露出狂になったと職場で誤解され、
腰を痛めて紹介で行ったマッサージ店の場所を間違え、性感マッサージを受けて帰ってきた。


なんていうか、あれだね、私はモテナイし、モテたこともないし、モテ期なんてないと思ってきたけど、

それでも「質」ってあるのかなってね。
モテナイ中でも質ってある。

この1年はその質が、ぐんを抜いてたね。
なんていうか、可能性すら全く感じられない。揺るぎない。

何だろね、私の頭にね、多分だけど ご神木が生えてるのかな。
もう、尊い
34年、人っ子ひとり寄ってこないって、これはもうモテナイくらいの現象じゃ説明がつかない、「モテ」とかじゃ表現できない。
もう、尊い


あれだよね、多分20年くらい前に放たれたはずの、白馬の王子さまは、いよいよ何らかの事件に巻き込まれた可能性が濃厚になってきたよね。

待てど暮らせど来ないもの。

来たら来たで、もう子馬とかもいっぱい生まれちゃって、ヒゲとかボウボウになった王子さまが謎の5歳くらいの息子と一緒に、犬ぞり状態で白馬をつれてやってきても、私は驚かない。


で、まあ、そんなふうに暮らしてて、あと、誕生日に何やってたかって、DSでマリオやってたんだけど、もう王子の気持ちになってね、ピーチをね、相当助けに行ってた。
必死で。人ごみ、かき分ける感じで。

でも逆に、そんなマリオの姿みてたら、もうピーチがね、羨ましくって。

こんなに色んな障害物の中、まっすぐ向かってきてくれる人いる?
すげぇ愛されてるなあって。
私だってピーチと代われるもんなら代わりたいって思って。


で、まるっと一日、ピーチと代わったつもりで色々考えてんだけどね。暇でね。


まずは、ほんとね、私の不注意で攫われたのに、わざわざ助けに来てもらって申し訳ないなと思う。

でもね、その一方でね、こうね、ちょっとね、思うよね。よぎるよね。

ところで、マリオしかいなかったの?って。
あ、うん、ルイージもね、うん、ありがとう、わざわざ。遠いとこから。うん。

で、えっと、その兄弟しかいなかったの、助けに来れる人?国の中で?
ってことなんですよ。

もうね、自分で言うのもあれなんだけども、こう見えてね、姫とかね、そういう立ち位置じゃないですか。
一国のね、ベルばらで言うところのマリー・アントワネットじゃないですか。
何らかの軍っていうかな隊っていうかな、そういうのがね動き出してもおかしくないわけです。

それが、まさかの、二人兄弟。
手が空いてる人にしたって、もうちょっと、なんかこう、居たでしょホラ、って思うよね。

まあこっちもね、なんかね、ちょっとした亀?んー亀なのかな?ってのに攫われたとこでね、思うところもあったよ。
あー・・・相手、人じゃないんだ。と。
カメにフィーチャーされたかぁ、と。

で、まぁ、私の魅力は軽く哺乳類を超えちゃったわけだけど。
超えたくなかった感はね、正直、否めません。そこできれば、持ちこたえたかった。

で、まぁ、願いむなしくカメの一群に攫われまして。でも、はっきり言って、お城もね、なんだかんだで陸地ですしね、相手はカメですからね、攫うまで相当のね時間がかかったと思うんですけど、そこはわりとね、じっくり攫われまして。

そこまではね、仕方ない。
いくらカメ相手でもね、こっちの人員配置がね、まぁキノコとかだったりもしてね、ほんとね、まさかの菌類。側近が。

そこはね、こちら側のねミスです。
正直、キノピオについては、雇ってたというよりは、生えてた、ただそこに、という状況と言っても過言ではないんです。

ほんと人事どうした。ってね。

そんなわけで、なんつーか、攫われてしまったのは、諦めがつきます。横のキノコに期待はしてなかった。

でも、姫がね、一国の姫がね、なんだかんだで攫われてるわけです。
もーディズニーとかだったら、えらいことになってるわけです。
王子がね、そこは黙ってないわけです。マントをひるがえすわけです。

まあディズニーはないなって思っても、もしかしたらね、ファイナルファンタジーくらいはね、あるんじゃないかと。なんらかのファンタジーが。

ちょっとちょっと、飛行艇とかね、来ちゃうんじゃないの?って。
クッパ城飛行艇で攻め込んじゃうんじゃないの?って。

だからね、もうね、驚きですよ。
つなぎみたいの着たヒゲ面のオッサン二人がね、着の身着のまま助けに来てんの見た時は。

手ぶら、で。

もうね、思わずハンマーとかね、ブロスと一緒に私もちょっと投げた。

まぁね、飛行艇とか、夢のまた夢でしたけどね、まさかの徒歩です。
ダッシュの 急いできた感 とかね、全然心に響かない。

いやー、せめて馬とかね、いたでしょ、一匹くらい。

って思ったら、何か乗ってるんだけどー、あの人―!ってなって。

もうね、ヨッシー?とかにね、乗ってくる。

友達に絶対言えない。
「うちの彼氏、また車変えてさ〜、で、ピーチの彼氏って、何乗ってんのー?」
とか言われて、
「え・・うん・・なんか、・・ヨッシー・・?」
って、自ずと声、小さくなる。

しかも、乗ってるかと思えば、豪快に逃げられたりもしてる。

もうね、見てられない。
ヨッシーに置いてかれる姿とか見たくない。

かと思えば、マントで飛んで、一瞬すごいって思ったら、もう必死なの。必死で浮こうとしてんの、で、数メートルで緩やかに落ちてきて、そのまま崖に落ちて行ったり。
かと思えば、なんか葉っぱ頭に乗せて、敵が来たら地蔵になったり。


いつ着くんだって話ですよ。


もうね、1日2日の話じゃないわけです。
だいぶね、クッパ城にも長居した感じになる。
勝手知ったるって感じになる。
食っちゃ寝ての生活で多少太ったりもするわけです。
体格良くなる。

かたや、向こうはキノコしか食べてなくてガリガリなわけです。
ちょっと背も縮んだりしてるわけです。

んで、やっと、命からがらクッパ城まで辿り着いてくれたマリオと感動の対面〜って思ったら、なんか、いきなり甲羅とか軽くぶつけられて、「あーメンゴメンゴ、ボスかと思った」つって。気まずい空気になる。

甲羅をそっと横に置きつつ、「大丈夫なの?」って聞いたら、

「大丈夫大丈夫、今キノコ食べれば大きくなるから」つってね、キノコばっか食べてんだけど、

「あのキノコ食べたらオレ無敵だから」つってね、なんかキノコ追いかけてったんだけど、

もう、肉とかっ、食えっ!
喜怒哀楽、全部キノコか!って。

んで、最終的に太ったカメと粗食のオッサンが自分を争って戦ってる。
これほどまでに、切ない戦いを私は知らない。できれば、帰りたい。

帰っても、待ってるのはキノコだけど・・。
待ってるっていうか、生えてるけど。



で、まぁ、何が言いたいかって、ピーチ姫がね、こんな感じでもね、文句も言わず頑張ってるわけですよ。ヒロインとして。
それを思えば、私がね多少ひとりでに34歳になったからってね、誰もむかえにこないとかね、愚痴なんて言ってられないわけです。

同じヒロインとして、よりいっそう頑張っていきたい。

そんなわけで、家でじっとゲームをしたり漫画を読んだりしてたわけですが、

家がねー、相変わらず、洞窟かなってくらいジメジメしてて、去年くらいから座布団めくると不思議とキノピオが生えてんだよねー。

家来できてた。


そんな感じで、なんか今年も尊そう!

人の宮殿を笑うなっ!

───今日のベルサイユは大変な人ですこと  byマリー・アントワネット


33歳処女なんですが、本屋さんで少女漫画を見ていたら、
あらすじに思いっきり「33歳処女のハナエ(主人公)が」みたいに書いてある漫画があって、

もう、買います!つってね、全巻買います!つってね。

で、その本の題名が『きょうは会社休みます』だったんで、
もう、わかる!わかるよー!私もできればお休みいただきたい!つって、
泣きながら本を抱えて帰ってきて、


で、1巻の1話目の数ページにして、主人公が処女じゃなくなってた衝撃ね。


嘘でしょ・・ハナエ・・。つってね。

あと、私の目が・・確かなら・・もう2,3巻あたりでは、イケメン大学生とエリートリーマンに、・・ハナエ、取り合われてない?

ええ、ええ、そうですね。
もう、いっそね、清々しい。
ラソン一緒にゴールしようね、って微笑みあった友達が、横見たらクラウチングスタートしてた時ぐらい清々しい。
駆け抜けていったよねハナエ。ジョイナかなってくらい。


で、まあ、私といえば、別段、会社を休むこともなくね、
ほんと、ハナエの分まで看護師として働く気持ちでやってたわけですが、

先日、病棟選抜じゃんけんに負け続けた末に、気づいたら20年ぶりのバレーコートに招集されまして、
「ハイブリット6だから、これも一種のハイブリット6だからー」なんつって、
こんなデブに、まさかのアタッカーを任命されまして、
飛べない豚は!なんつって、華麗なる7cmジャンプを繰り返したすえに、
私の腰が火を吹きました。

もう「引退」の二文字が頭をかすめるくらいの腰痛。
マゲがあったら、ぽとりと取れるくらいの腰痛。


「し・・師長・・腰、やっちゃった・・・」つってね、電話しました。
この33年鳴かず飛ばずの腰から、沈黙の腰からね、遺憾の意が出てたし。

進化の過程でいえば、ホモ・サピエンスのギリギリ2つ3つ後ろくらいの二足歩行になってることを伝える私。

師長は勤務表を見ながらおそるおそる「いける・・・?」っつーので、
「今期は絶望だと思って下さい」って言い残して電話を切ろうとすると、
笑われたすえ、ガツンと怒られ、師長行きつけのマッサージ屋さんを紹介してもらった。


行ったことない駅だった。
とりあえず師長が「駅チカ駅チカ」言うんで、駅おりたあたりを見渡すと、すぐに見つかりました、「マッサージ 宮殿」。

宮殿かー、なんつってね、疑いもなく入っていったんですけど、
もう思いっきりそこじゃなかった。思いっきり、間違ってた。

師長の言う駅チカは、駅の地下だったわけで。


でもね、師長お墨付きの宮殿ですもの。ほんと、なんの疑いもなかったわけです。宮殿っぽいドアをくぐっても、間違ってるなんて1ミリも思わなかったです。


スって入った。


で、どんくらい間違ってたかっていうと、
まず、宮殿は、性感マッサージ店だった。

もう店が違うどころの話じゃないのねー。
主旨から、だいぶ違っちゃってんのねー。

いやいやいや、絶対気づくと思うの。さすがの私も。
ドア開けて、あっ!つって赤面して慌てて帰ってくると思うわけです。普通に考えて。


でもね、これ全国の女性にお伝えしたい。
気づかないわ、これ。
超アットホーム。あふれる宮殿の魅力。
タイ古式とか韓国風とか、そういう感じ。


受付に行くと、男の受付の人が(確かに今思えば)ちょっと怪訝そうだったんだけど、
そこはもうピンときたのね。
「ああ予約してないからだ」ってピンとね。
ほんと、私の「ピン」の正解率の低さ。

で、私、そこは はっきりと言いましたよね。「紹介できたんですけど」って。
で、「予約してないんですけど、今日、受けられますか?」って。
もー堂々と言った。師長の宮殿ですもん。
「マッサージしに来ました!」つって、威風堂々っつーくらい言ってやった。
モジモジ ゼロ。

そしたら、もうね、向こうも納得の顔ですよ。
なんせ紹介で来てますからね。断固として。


で、料金表見せてくれたわけですよ。
女性でありながらも、難なく次のステージに進んだわけですよ。

そしてここでも違和感ゼロですよ。

・60分コース
・70分コース
・90分コース
・30分延長

つってね、表記がいつものマッサージと何ら変わらないわけです。

確かにいつものマッサージより割高でした。
だけど、そこはもう師長クラスが来るところですから。宮殿ですから。

って思ってました。


で、コースの下に「オプション」って書いてあって、「トップレス」とか「オールヌード」とかあったんですけど、
なんかアロマオイルマッサージとかの時は服を脱ぐので、それかなって思ってて、「トップレス」だと肩中心で、「オールヌード」が全身なのかなって納得してました。
おしゃれな言い回しだなあ、とすら思ってた。

でもねでもね、私もこの年ですから、何事も確認が大事、確認を怠ったら大変なことになるって、幾多の経験から学んでた。

だから、一応確認はしたわけです。
「あの、全身やってほしいんですけど」
って。

したら、
「それは宮殿コースになります」
つって言われた。

で、まあその宮殿コースがデラ高いわけです。

なんだろう。
この時に少しだけ、初めて引っかかりを覚えたけど、まあ、ここは宮殿コースなのでしょう、って思いなおして。

それから「指名しますか?」って聞かれて、「はじめてなので、特にないです」って言ってから、やっぱ思い立って「あ、でも、力の強めの人がいいです」って言った。
すると受付の人が「当店は女性しかテクニシャンがいませんが大丈夫ですか?」って聞かれて「あ、大丈夫です」って。そう言いました。

もうね私は、何の会話をしたんだろうな。


で、なんか空いてるみたいで、すぐに奥の仕切られた部屋に通されて、宮殿コースを受けることになりました。
もうね、全然いけちゃうわけです。スイスイ突破していくわけです。

で、もうねもうね、部屋も至って普通。
仕切られた個室がたくさんあるマッサージ店みたいなまんまで、別に部屋がピンクとかそんなんはなくて、アジアン風で、明かりはちょっと暗めだったけど、そんなんもう、どこのマッサージ店もそれでしょ?みたいな作りで。

で、マッサージ台も、もうほんとおなじみのやつ。そうそうこれこれー、つって、もー自然に横になってましたよ。違和感なし。

したら、マッサージしてくれる女の人が来たんだけど、ちょっと片言のアジア系の人で、はい全然違和感ないです、はい。

「オイル使ウカラ、下着、脱イデ」って言われても、オーケーオーケー、アロマオイルですね、って。知ってる知ってる、つって。

で、まあ普通に全裸でマッサージ台に乗って、うつぶせになってたよね。

もう、涙が出るくらい違和感なし。


んで、どこで違和感が発生したかって、横になった時ね、はじめて隣の部屋の声がね聞こえてきたわけです。
殿方らしき声が。

最初はね、ああマッサージが気持ちいいんだなって思って、こりゃ宮殿当たりだな!ヨッ師長!って思って耳をすませてたんですけど、

あれ、なんか、それにしても、あれ、なんだろ、え、すご、え、はげしい、え、あれ、え?
って思って。

もう 耳をすませば なんてもんじゃない。隣の天沢聖司がエライことになってる。
ずっとハンハン言ってる。ハンハンが止まらない。
ハンハンハンハン、チンギスハーン!


もしや・・・。ってね。


そうかと思えば、後ろの女の人、シュルル・・つって、何か服脱いでない?って気づいて。

私は、もう高速で思い返したましたよね。
マッサージする側が服を脱ぐ可能性について。

したら、もう走馬燈のようにね、オプションのこととか、宮殿コースのこととか思い起こされましてね。

で、名探偵コナン並の名推理を展開しましてね、
あ、性感マッサージだわ、これ。って思いました。新一!


33年、ソロ活動。
経験がない、経験がない、なんで私だけ・・神様・・!って思ってきたけど、

神様の仕事が雑。
経験だったら、何でもいいってわけじゃない。


で、まあ、普通にまずいわけです。
もう後ろからは、何らかのローション?オイル?をカシャカシャ振ってる音が聞こえてくるわけです。

このままじゃ、隣のチンギスハーンと共に私の股間モンゴル帝国築いちゃうかもしれない。

海の側のホテルじゃない。
波の音も聞こえない。
この場末の宮殿で、大人の階段のぼりそうで想い出がいっぱい。


言おう言おう言おう言おう
帰るって言おう


でも何て言うかな、様子をみるって言うのかな、
まだちょっと信じられなかったというか、
こういった宮殿世界にね、私なんかが気軽に入り込めるなんて思ってないですから、黒服とかにつまみ出されるって思ってたわけですから、
万が一、万が一ね、もしかしたら、こういうマッサージもあるのかもしれない。

って、どっかで思ってました。


したらもう、フィールド・オブ・ビューより突然に、女性が乗っかってきたわけです。
「王手!」とばかりに、ローションにまみれた女性がつるーんって覆い被さってきたわけです。


ぎゃーーーーーーーーーー!つって。


ついてる!ついてる!
色んな具が背中についてっから!具だくさん!
その装備持ってっから!あたしも持ってから!


もう大パニックでね。
映画だったら「タイタニック」って題名がついてもいいくらいのパニック。
ちょっとしたタイタニックのポーズみたいなのも二人でとったしね。

「違う」つって。
「違うの」つって。

事情を説明したよね全裸で。
もう、せつせつと。
バレーの部分から。
むこうもうんうん聞いてくれて、全裸で。

で、腰やっちゃったから、普通のマッサージをして欲しいって訴えると、
うんうん言ってくれて、オッケーつってね、マッサージ再開したわけですけど、

こいつ1ミリも通じてねぇな。

うんうん言ってた次の瞬間に、私の股間妖怪ウォッチを、すげぇ触ろうとしてきたから。

いやいやいや、だからー!!
つって。右に左に鬼時間。

しかもなんかこの人、力が強いんですけどー!(オーダー通り)

もう絶対触らせたくない私と、触ってなんぼの彼女の間で、ちょっとしたカバティみたくなってた。
こっちのベルサイユも大変な人ですこと!(加藤ワネット)

もーいよいよ日本語が通じない、と思って。
何度説明しても、彼女は「ダッテ 宮殿コース ダヨ」の一点張り。

「宮殿!」「宮殿!」「宮殿!」
よろしい。ならば宮殿だ。

一瞬、楽しんじゃおうかなーって、思いもしました。

私の下半身のオスカルが「私の屍をこえていけ!」つってる。
「フランス・・ばんざい・・」つってる。

でも、そこで思い出したわけです。
私にも心のアンドレがいたなって。

2回告って、3回振られ、のちに一般の女性と結婚した一般男性のアンドレ佐藤。
このアンドレを、私は今も大切に思っているわけで。
今後、なんかの偶然で、この中野片隅で佐藤と出会ったとき、

宮殿済み になってて、私はいいのかい?

こんなカンブリアじゃない方の宮殿で、なに33年あっためてきた生命を爆発させようとしてるのかって。
目が覚めました。


もう、具合が悪くなったふりしたよね。
身振り手振りで。ジーザス!みたいな感じで。

まあ、ばれてたよね。
彼女の疑惑の目が凄かった。


隣の殿方のチンギスが今まさにモンゴルを統一しちゃってる間、
こっちのマンゴル二人の気まずさつったらなかったけど、

もうそこは、転がるように店を出ました。

転がるようにっていうか、もう帰りたすぎて、全部に「はいはいはいはい」つってたら、
まあ、宮殿メンバーズカードを手に持ってたよね。自動的に。
次回から宮殿コースが20%オフです。お得!


そんな感じで、命からがら宮殿を後にしたわけですが。


手元に残ったこの宮殿カード、非常に重厚な作りになっててね。
どのくらい重厚かっていうと、職員証と間違ってカードキーに通しちゃうくらい。
その上、職員証より更に重厚だったみたいで、カードキーにサックリ詰まっちゃうくらい。

泣いたよ、朝から。

もう、この人通りに多い出勤時間に、完全に病院の職員出入り口を封鎖して、みなに見守られながら、守衛さんにカードを取り出してもらう間、

機械のはしに、ちょこっとだけ見えてる「宮殿」の文字に、どうか誰も気づかないでおくれ!と死にそうになりながらも、私は強く思うのです。


ハナエ・・・あたし・・
きょうも、仕事、休みません!

はばたけ前髪

垢抜けたい。
って美容師さんに言ったら、
じゃあ、前髪パーマですよ!
って言われて・・・・。


もうね、まさかの前髪パーマ。
絶対、パーマが足を踏み入れちゃいけない領域にね、思いっきり踏み込まれたよー。
敵は本能寺に有り。最先端の美容院で、クルっと行ったよ。もう迷いなし。

いやー、ロッドを巻かれてる段階から、嫌な予感はしてた。
素人ながらに、「あ、そっち巻いちゃう?」みたいな感じがあった。重力にね、完全に逆らってる方向だったもんね。

んで、おそるおそる「これって、上、行っちゃいません?」的なことをね、聞いたわけです。
したら、美容師さんは、「いや、重力があるから、丁度いいかんじに、ななめ前髪になるんですよー。滝川クリステルみたいに」って教えてくれたわけです。

なるほど、と。
クリステル、と。

そして、まあ、今、完全に前髪が立ち上がってる私がいるわけですが。
寝坊?って聞いたよね、思わず前髪に。
思いっきりツバメ返しみたくなってるわけですから。


いやいや、美容師さんも、まさかのクリステルができちゃったみたいで、大慌てで。

どう見てもね、いつもより多めに回しておりますくらい回ってて。
こう、ロッドをねー、取った瞬間の手つきが、裁判で言うところの「勝訴!」みたくなってた。

でも次の瞬間には、何かの巻物のように前髪が、凄い早さで巻き戻ったんですけど。
全自動で。

で、あわてた美容師さんが、もうワックスとかスプレーとかで必死に固めて、オーケーオーケー、何の問題もないよ、みたいに励まされて家に帰ってきたんですけど、お風呂上がったら、前髪がピロピロ笛みたくなってた。


・・・オーケー?


えっと、そんな私が、前髪スタイリングの片手間に今日は書いていきます。


ところで最近、痛切に感じたんですけど、私はまるで人気がない。
人気というか、人望。

というのも、うちの病院にはバレー部があるんですけど、おばちゃんだらけの。
で、その中に、何の因果か、私もいて。もう病棟選抜のじゃんけんに負けに負けて。


で、この夏、そのバレー部がびっくりするくらい予選を勝ち抜きまして。
ここ最近の気温差で、風邪が流行ってるみたいで、2回くらいの不戦勝を経て。
んで、ちょっと上の大きな大会に出ることになった。


でね、病院では大々的な壮行会みたいのがあったわけですよ。
各病棟から、タスキとか旗とか色紙とかのね、応援の品々がね、一人ずつ手渡されるわけ。

で、外来のおばちゃんたちとか、「はばたけ!」みたいな応援幕みたいなの手渡されて感激してて。

んで、うちの病棟の番になって、私が、まぁちょっと照れながら前に出たら、うちの病棟の先輩たちがモジモジしながら前に出てきて、

で、司会の人もメモとか見ながら「4階病棟の人たちは、なんと鶴を折ってくれたみたいです!」とか言って、もう私を含めここにいるみんなが千羽鶴をね、期待したんですけど、


三羽、もらいました。
手渡しで。


はぐれちゃったの?

目をね、疑った。
三羽て。
もうね、全然 はばたけない。

つーか、今さっき、必死にそこで折ってたの、ちょっと見えてたし。
見えてたけど、「あー、千羽だから、ちょっと間に合わなかったのかもなー」って思ってたら、すげぇ間に合わせてきた。

先輩いわく「ごめん、徐々に増えるから」つって。


で、大会当日も、おばちゃんが「みんなの思いを力に変えたい!」とか言い出しまして、応援の色紙とか垂れ幕とか全部、試合会場に持っていくことになって、うちの鶴もね、持って行ったんですけど、

もーね、二羽になってた。
不注意でね、一羽なくなってた。

まぁ確かにね、なくすよね。糸とかで繋がれることもなく、思いっきり三羽バラっと置かれてたもんね。放し飼い。いつなくなってもおかしくなかった。

で、ちょっとふてくされてたら、師長さんが応援に来てくれてて、「加藤さん!病棟から鶴持ってきたよ!」つって。

なんかね、コンビニの袋みたいのくれて。

まあ、鶴がね、入ってたんですけど。
10羽くらい。

しかも、10羽つったけど、10羽のうち2つは、鶴じゃなくてカメラだった。あと1個手裏剣だった。

もうね!もうね!
って思いながら、受け取ったんですけど。

で、結局、どこにぶつけていいか分からない思いをコートにぶつけることで、見事三位入賞しまして、

「みんなの思いのおかげで!」とか抱き合ってるおばちゃんの横で、やあ見事実力だったな、出し切ったな、と思いながらベンチに戻ったら、一羽の鶴が、カバンの下でつぶされかかってて、

うわわ、って思って拾いあげたら、ちょっと鶴じゃなくなっちゃって、よく見ると、中に、何か書いてあって、開けてみると、

「加藤さん、がんばれ」って。

え!これはもしや!と思って、他の折り紙も開けてみたら、全部に「頑張れ」ってメッセージが書いてあった。

私がそれをじっと見ていると、後ろにいた師長がドラマのような感じで近づいてきて「みんなね、加藤さんを応援してるんだよ」つってた。

う・・うん。
全部、師長の字だったけど。



そんな感じで、次の日、出勤したら、先輩から、「これ遅くなったけどー」つって、鶴もらった。

それ見てた、もう一人の先輩が「あ、私、まだ折ってないや!」つって、その場で折って渡された。

もうね、試合はとおに終わったんだけど、なんとなく言い出せず、今も尚、徐々に鶴がね、集まりつつある。


そんなわけで、雑誌の特集で「人気者になれる髪型!」みたいのがあったので、美容院に駆け込んだら、こんなことになりました。


昨日「そういえば、何で鶴集めてんだっけ?」って聞かれて、
つーか、ちょっとしたコレクター的な感じで聞かれたんだけど、

そもそも、集めてたわけじゃなくて、本当は、おのずと貰えるはずだったわけで、でも、その時期はとっくに過ぎてるわけで、半分ふざけて、

「えっと、この前髪が早くなおるようにです…」つったら、その後、こないだの出来が嘘のようなびっくりするくらいの数の鶴をね、病棟のみんなからもらいました。


私の前髪は病気じゃない!!







───────────余談ですが・・・・
Facebookにどうやら「加藤はいね」という看護師の方がいるっぽいですが、
この前髪に誓って私ではないので、気をつけてください。

露出狂にあった話をします


ここ最近、言いたいことといえば、「露出狂にあった」ってことかな。


傘はとうに吹き飛んでいて、ここ東京で遭難するような雪の日に、
逃げ込んだ新宿ルミネストの地下へと続く階段の踊り場で、露出狂にあった。

命からがら氷ついた髪の毛が少しづつとけて、ただもう家に帰りたいと無心に階段を下りていると、後ろから丸ビル勤務かなってくらい上等なコートを着こなしたレオンのようなサラリーマンに声をかけられた。


ティッシュ持っていませんか?」


ティッシュとな。
このナイアガラの滝のように鼻をたらしてる女に、よくも聞いたねと、振りむけば丸ビル。

断じて不所持のチッスを、探してるふりの様式美。あれー?あれれー?つって。
エアギターもここまでってくらいカバンをガサゴソしながら、
チラチラと赤らめた顔でリーマンを盗み見ると、

リーマンのコートの第6ボタンくらいのとこから、リーマンのリーマン部分がサラッと出てた。
これがサラリーマンか!


もう顔をね、鬼のように顰めたかった。
ゴミの出し方について物申すベテラン奥様のように。

ところがですよ。リーマンが想像のハードルを、ふわりと越えてきたわけですよ。
観てください奥さん、この色!艶!ハリ!

ミケランジェロが作ったんじゃない?ってくらい美しい露出狂の露出棒。
北斗神拳くらったくらいの衝撃で「だ び で っ!!!」っつって、私はもう死んでいる!

あのマー君すら虜にした ももクロ ってこのこと?
この吹雪の東京で、一筋の輝き。
私がマッチ売りの少女なら、思わず手をかざしてたかもしれない。


露出は犯罪です。
露出は犯罪です。


でも10年ぶりくらいに会った露出狂。
33年、鳴かず飛ばずの私にとって、溢れる一杯のかけそば感。
別に見たかったなんてことは断じてないけど、
ちょっとしたこぼれ球ひろったみたいなこの感じ。

このこぼれ球、私だって決めたい!
キャーとか言って、驚いて逃げるとこまで、やりきりたい!

なのに、33歳ともなると、喉にタンがからんで「キャー」とか高い声、そう簡単には出てこないわけです。箪笥の奥の方に圧縮して仕舞ってある。
かわりに、このオトメの一大事に「なるほどー」とかすぐ出そう。愛川鉄也ごと出そう。
しまえ、しまえ。

すると、むこうもむこうで、なんだか描いてたものと違ってたんでしょうね。
私がずぶ濡れのまま、羅生門の老婆かってくらいオドロオドロシイ姿で振り返ったので(しかも無言)、
一瞬ギョっとしたのち、「またつまらぬものを斬ってしまった」みたいな残念顔で、
斬鉄剣をそそくさと仕舞って、私を置いて帰っていったわけです。

私も私で「森へお帰り」って感じで見送ったんだけど、…なんだろう、この気持ち。
これが、あの芥川龍之介が描きたかった老婆の…気持ち…?


羅って生がない門っ!
45年ぶりの大雪だ門っ!
そりゃ唇だって紫になるし、鼻水だってちょっとしたサーバーかなってくらい出てる。
この顔の露出だって、相当きわどいライン攻めてた。
でも、そうは言ってもあっちは本場でしょ?
そこは、ぐっと踊り場で堪えて欲しかった。
私はうめくような声を立てながら駅の階段を覗き込んだ。
外には、ただ、黒洞々たる夜があるばかりである。
露出狂の行方は誰も知らない。



だ・け・ど
捨てる神あれば、拾う神ありっていうかな。
昨日、職場の飲み会で、どういう流れか「痴漢にあった話」で盛り上がり始めた時、満を持して、この話ですよ。

仕事では息をひそめてる私が、飲み会の話題を、一気に独り占めする大チャンスですよ。
なんせホットな話題ですから。つい先々週くらいの話ですから。

結婚の話題にも、夫の不満にも、子育ての大変さにも乗れなかった私に、
千載一遇のビックウェーブです。
私は風に向かい拳をつきあげるチャゲ、そして飛鳥のように、言ってやりましたよ。
「こないだ10年ぶりに露出狂にあったんですけど!」って。


勢いがね、焦りがね、出たね。
「これが私のソチ!」くらいの気持ちで行ったのがいけなかったのかな。

完全に「10年ぶりに露出狂にあった」ってのを「露出狂になった」つってたらしいのね。あとから後輩に聞いた話によると。露出狂、なっちゃってた。

でもソチですからね、もう舞い上がっちゃって、なんなら舞い降りちゃって、全然気が付かなかったんですね。

多少ね、自分の思ったリアクションと違うっていうか、みんなが思いのほか引いてる感じはあった。
でもこれがオリンピックなんだ、っていう羽生イズムで話し続けたわけで。

したら、師長がね、
まあ、職場の飲み会っていうか病棟のちょうど歓送迎会だったんで、師長もいてね。
その師長が恐る恐る聞いてくるわけです。
なんか「どんな感じで?」みたいなことを。

師長を虜にするほどの話題。
そこはもう、身振り手振りを加えてね、じっくり説明するわけです。

「なんかこう…キレイメのコートを着てね、こう、股間のところだけ開けて…」つって。

もう引き潮がすっごい。
厳島神社の鳥居が丸見えになっちゃうくらい。
そんくらい引いてた。

おかしいな。トリプルアクセル決めたはずなのに、構成点ぜんぜん伸びない。
お話のステップシークエンスに入っても、歓声が上がらない。

「大丈夫だったの…?叫ばれなかったの…?」
先輩に聞かれたとき、一瞬「露出狂って自分から叫ぶっけ?」って思ったけど、
むしろ食いついてきてくれたことが嬉しくて、

「大丈夫です。なんかむこうもビビってる感じだったんで、思いっきり「露出狂だー!」って叫んでやったら、逃げていきましたよ」


職場ドン引き。
みんなには見えたのかな。10年ぶりに、私がキレイめのコートを着て、股間だけ開けて、「露出狂だー!」って叫ぶ姿が。

なんかもう、誰も質問してくれないし、なんなら目も、ちょっと合わない。
そんな感じで、力出し切れず、私のフリーの4分間が終わりました。



次の日、休みで家で漫画読んでると、真面目な後輩から「今、休憩中に聞いたんですけど、露出は犯罪ですよ!」ってメールがきて、初めて事態に気が付いた。

慌てて「私が露出したんじゃなくて、されたんだよ!」って訂正して、真面目な後輩も「わかりました、みんなにも伝えときます。」つってくれて、
「心強いわー」つって
「任せてください」つって。


その後輩が、「加藤さんが露出されたんです」「加藤さんが露出されたんです」ってね、
大いに広めてくれたわけですが。

何だろう、最初のインパクトが強すぎたのかな。
「された」ってのが、ただの尊敬語になっちゃってんだよねー。ダメ押し。

ほんと、休み明けに仕事行ったら、誤解は全然解けてないし、後輩はただの露出を崇める人みたいになってるし、先日のが危うく私の歓送迎会になるとこだったわー。

あと、後輩の頑張りが裏目に出たのか、誤解が解けたはずの今でも、職場で露出教の教祖って言われてます。
違う意味で宙に浮くわー。
そんな近況です。

風よ!炎よ!雷よ!我が剣となって、この悲しみの大地に処女を貫け!ゴゴゴゴゴゴッ! (33歳)

いやー、生贄とかの制度が無い時代で良かったわー。
いやー、ドラキュラとかいない国で良かったわ―。

超、安泰。
向かうとこ敵なし。
処女のまま、無事33年。
まったく何からも狙われることなく、今日、33歳になりました。


33年の集大成っていうのかなあ。
この1年。例年にまして驚くほど何もなかった。
もう今シーズンの危なげの無さつったら、私の下半身あたりでもマー君が投げてんじゃないかってくらい。

実は私は生まれながらの巫女なんじゃない?
そしてこのアパートはもう神社と言っても過言じゃないんじゃない?
下半身に、軽く何か祀られてんじゃない?

そう思って33年。長丁場すぎる。

もはやバージンっていうか「バー人」って人種になってる。
ユニコーンなんかでいえば、もう見えるとかじゃない。馬主ですよ。
JRAでユニコーン(三歳馬)に武豊のせてる頃ですよ。


職場の後輩がさー、6年付き合った人と別れ、運命の人と出会い、出来ちゃった結婚して、新居を買って、先日、元気な女の子を出産し、写メしてくれたこの1年で、私、微動だにしてなかったのね。

彼女が「3220グラムの元気な女の子です!」って写メくれたとき、私、スマホで「脱出ゲーム」してて、まさに花瓶の下から謎のカギを見つけて、出口を捜してる瞬間だったんだけど、おのずと脱出しなければならない場所は他にあったことに気付いたよね。

こんななのに、キッカリ歳だけとってくから、人生ってスゴイ。取り立てスゴイ。
キッカリっていうか、ちょっと早くない?私だけ早くない?トイチでとってない?


そんなこんなで円熟味もだいぶ増したので、そろそろこの悲しみの大地に何かあるかもしれないと、
こないだ秋の職場の健診では生まれて初めて「婦人科健診」をオプションで付けちゃったわけです。
もうね、私以上の婦人はいないでしょう、と。

…正直、間違ったのね。丸つけるところ。
健診の希望の紙の締め切りがめっきり過ぎてて、師長に冷たい視線を向けられながら慌てて丸付けてね。もう上の先輩の真似して丸付けたらね、こんなことに・・。


婦人科検診つったらアレですよ。
乳がんの触診とマンモグラフィーとエコーね。
あと、なんとあの噂にはかねがね聞いていた子宮頚がん検診です。
もう上から下からで、私からしたら、軽い初夜みたいなもんです。

しかも子宮頚ガンについては、だいたい初めての性体験から3〜5年後くらいから受けるのが推奨されてて、もうね、絶対今じゃないのね。


前の日は、眠れなかった。
初めては、海の見えるホテルで、波の音を聞きながらって思って30年。
こんな日がくるとは思わなかった。
いや、こんな日が来なさすぎて、代打で、こんな日が来ちゃうと思わなかった。


とりあえず乳がんの触診とエコーについては、キレイな女の先生だった。まるでエステのように終わった。

次のマンモグラフィーは、乳をレントゲンの板で挟んで撮るんだけど、技師さんが新人の女の子で、びっくりするくらい手間取った。

つーか、若干、私の乳の力不足なところもあって、もう、私の胸部の乳とする部分をレントゲンの板で挟むのが大変で。
すばしっこくて。
軽い捕り物帳みたくなったよね。
ここは「私が押さえておくから、そっち頼みます!」つって技師さんと私で必死に乳を袋小路に追いつめた。


そんなこんなで、無事、乳の方をクリアし、お遊びの時間は終わった・・・。


待合室では、震えてた。
テレビがあって、ワイドショーがやってるんだけど、何も頭に入ってこないのね。
これから私の股間に起こるワイドショーの方が凄くて。

問診票の性体験の有無の欄から筆も進まない。
打ち明けるべきか、黙するべきか・・・。

今日は朝からすっごい洗ってきた。うちにある数々の石鹸を使って洗った。友達から海外のお土産でもらったギリシャの石鹸も おろして洗った。
最後に仕上げでリンスもした。
あらぶる毛を整えた。

パンツにいたっては、今日のために買ったよ。
ワコールの本気みたいなパンツ。

そして満を持して。マンも持して。
グッと手を握りしめて待ってると、ついに名前を呼ばれた。

お母さん・・・!
お母さんに手紙書いてくれば良かった。

私・・行くよ。


扉を開けて中に入ると、看護師さんにここでパンツを脱ぐように言われた。
ワコール先輩が「本当に一人で行くのかい?」つってる。

さよならワコール先輩。多分、次に先輩にお会いする時には、一回りも二回りも大きくなって帰ってきます。

パンツを脱ごうとした。

この時ね、婦人科のツウはスカートで来るっつーことを私はもちろん知ってたわけですよ。
スカートでくれば、パンツを脱いでも急に恥ずかしいことにはならない、って裏技を知ってたわけですよ。

だから私はもちろんスカートで来たわけです。
看護師さんも、ズボンの人には検査着を貸してるみたいだけど、私がちゃんとスカートだったので、私をデキル!と見込んだのか安心して、隣の診察室に行っちゃったわけです。

で、脱ぎ始めた私は、この瞬間、はじめて自分が穿いてきたのが、スカートに見えるキュロットだったってことに気づき、息が止まるほど動揺してたわけです。

キュロット!!!!!!

カカロットー!」くらいの勢いで思ったんですけど、驚きすぎて一切声が出なくてね。
しかも、もう看護師さんは、とっくにいなくてね。
検査着ももらえず。

ゆってもキュロットスカートだから、このスカートに見える部分を何とか生かして、うまく巻きつけて穿けないか、とか、片足に二本脚をつっこんで・・とか色々トライしたんですが、全然巻きつかない。巻きつけるには全然尺が足りない。

もう下半身丸出しで、あーでもない、こーでもないと、汗だく。
ギリシャの石鹸の香りも、かき消す勢い。

悩んで、結果、添えたよね。
下半身にキュロットを添える形になったよね。
銭湯かな?って感じで。
多分、ミロのビーナスが確かこんな感じで立ってたと思う。

後ろから見るとね、お尻は完全に出てるんですけど、
間違いなくノーガードなんですけど、
前から見たら、もしかしたら、奇跡的に穿いてるように見えるかもしれない・・・!

一縷の望みにかけたんですけど、戻ってきた看護師さんが完全に「え」つってた。
奇跡ならず!

慌てて看護師さんが「検査着・・」って言いかけたところで、「用意できたかなー?」つって、先生が登場した。

先生っていうか、完全に角田信朗
男の先生かもしれないとは思ってたけど、まさかのレフェリー角田信朗

そして、用意できてない私。添えただけの私。
なのに「じゃあ、椅子座って」と先生。荒っぽい。

私は必死に看護師さんに「検査着、検査着」つって目線を送ったんですけど。
でも看護師さんも「いける、いける」つって目線を送ってきて、結果「じゃあ、この椅子に腰かけてくださーい」つって、もうこのまま行く感じ。

私はキュロット添えのまま、散々おそれてきた魔の診察台へ。

まさに婦人科の総本山。
多くの女子がこの診察台に心を折られてきたと思う。

そう覚悟してきたんですけど、この診察台、私の思ってたのと結構ちげぇ。

あのすげぇ足開いてる診察台界のヤクザみたいのじゃなくて、ピンクで可愛くて、今んとこ足も開かれておらず、でっかめのマッサージチェアーみたいな形。

とりあえず、キュロットを華麗に添えながら普通に座る。

したら、先生が「じゃあ倒します」つってボタンを押したら、
急に背もたれがゆっくり倒れ始めて、足が持ち上がりながら、そして開いた。

なんつーのかな。
よくエロビデオで見るみたいな、こう、なんていうかエロい感じはほとんどなく、
印象としては軽くガンダムに乗り込んだみたいな感じ。

途中までは、あ、案外、大丈夫かも・・って思った。
アムロじゃないけど、行きまーす。ぐらいの余裕で倒れて行ったんですけど。

ところでね、私ね、33年近く、誰にも足なんか開いたことなかったからね、今回が初開きだったわけです。ちょっとした海開きと言ってもいい。

完全に海に入る前の準備体操を怠ったわー。

三十路の足がねー、機械の開脚に全然ついてけないわけ。
180度くらい開くやつのね、70度くらいで、早めの限界がきたよね。

「ギブギブギブギブギブギブギブギブ」つって。
角田さんに言ったよね。レフェリー!つって。

したら、角田先生も慌ててボタンを押して止めてくれたんだけど、
もう70度なの。全然だめなの。天の岩戸5センチくらいしか開いてない。

先生も、これはないっつー顔してる。
分かってる。ダメなのは、私もさすがに、分かってる。

「あの、ちょっとずつでお願いします」
つって、超深呼吸した。

で、また角田先生が椅子をスタートさせたんだけど、
もう1秒で限界なの。「アーッ!」つって。「裂ける―!」つって。
したら、また、すぐ止めてくれて。

で、動かしては「アーッ!」つって、止めて。動かしては「アーッ!」つって。

だいぶ早いけど、初ヒッヒッフーをココで使ったよね。

もう看護師さんも、最初が嘘のように私にかかりきりで、肩をさすって励ましてくれて。
多分、隣の診察室では、「なんか隣、生まれない・・?」くらい思われてたと思う。
少なからず、先生と私と看護師さんの間では、なんらかの絆は生まれてたと思う。

しかし、そんな絆もつかの間。突然の裏切り。
先生も、結構じれったくなったのか、ラスト20度くらい一気にいったよね。

もう白目ですよ。
ほんと軽くキュロットとか投げたよね。セコンドがタオル投げるみたいに。

結局、5分くらいかけて、開きました。


足が開いたらすぐに、先生と私の間にシャってカーテンが引かれた。丁度、私の腰から下のところで見えないようにカーテンしてくれた。

これは、恥ずかしさが半減していいかも。
なんつって思ってたら、

「じゃあ、検体を採りますから、楽にしてて下さい」

ってカーテン越しから声をかけられ、急に本番ですよ。
まだ、私たちお互いのこと何も知らないのに。
出会ってすぐに、こんなことって。

もう、この時の気持ちを何て言ったらいいかわかんないけど、
何て言うか、ツ―――って涙がこぼれたんですよね。

なんていうか、初めては、海の見えるホテルで波の音を聞きながら「ハイネ・・愛してるよ」とか「大切にするよ」とか言われながら、ゆっくりと足を開いていくものだと思ってて、

まさか、検体採りますよ、なんつー声かけで足を開くことになると思ってなかったから。
もう、私のサラダ記念日がエライことになったっつって。サラダ、パサパサになるっつって。

そう思ったら、急に色々考えちゃって、そもそも痛いんじゃないかっつー不安が凄くて。
そもそも検体採るってどんな感じに?って思って。
鼻から大根入れてケツからスイカ出すくらい痛いとか、中2くらいで手に入れた知識が走馬灯のように巡って。

その時になって、問診票の性体験に何も書かなかったことも心配になってきて。
角田さん、お花摘むみたいにやってくれるかな・・・もう30越えてるし、ベテランだと思われて、「検体 出てこいやぁー」みたいな手荒い洗礼を受けたらどうしよう・・・って。
緊張もマックスで。

今なら顔も見えないし、このタイミングしかない!って思って。

「先生、あの、採るってどんな感じですかね・・・実は・・私・・あんまり・・・えっと・・経験が・・・あの・・」つったら、

もうね、ちっちゃい声で言った私が悪いんですけどね、
「え?なに?」つって先生が思いっきりカーテンから顔出してきたわけ。角田が。

もう飲み屋の暖簾みたいに。「やってる?」とばかりに。

やってねぇ―――――!!って慌てて首を起こしたら、
もう角田と近い近い。こんなに近いことある?
爆発するくらい恥ずかしくて、「なんでもない」つって、慌ててカーテンを自分で閉めようとして手を伸ばしたら、
私の5年くらい沈黙してた腹筋が火を吹いてね。

もう今まで一回も攣ったことがない脇腹と、なぜか右足がね、同時に攣ったの。

「ヌ――――――!!!」
つってたかな。
ヌが出た。


「先生!攣ってる攣ってる!!」
つって。


「ちょ!一回戻して!一回戻して!」
つって、もう今度は、私が「やってる?」状態でカーテンをこじ開けて叫んだんですけど、

先生もここ一番のプロ根性で、

「いや、もう、採っちゃうよ!」

つって、謎のちっちゃいブラシのついた細い棒を取り出して、
カーテン全開のさなか、私のエヴァ初号機に乗り込んで来ました。


痛っ―――――――――――――――くなかった・・・。


アレ?ってうちに、先生が脱出ボタンでも押すような勢いでボタンを押し、
足が閉じて、背もたれが上がって、イスが元の形に戻りました。

一瞬で、終わってた。

これが、あのシンクロ率?

つーか、足が痛すぎて、何も感じなかった。
入れた感じすらしなかった。

先生はそのまま、挨拶もそこそこにいなくなり、代わりに入ってきた看護師さんに、

「あの先生うまいですね。全然痛くなかったです」つったら、
「割とこのくらいの年になると、なんでも大丈夫ですよね」って言われた。


間違いなく処女です。
なのに、この30代の懐の深さつったら、ちょっとした綿棒なら余裕でした。
むしろ、入れた綿棒が空を切る感じすらあった。


どの方面からも全く意見を求められてないわけですが、私が思うに、
処女を取っておくってのは、ワインを寝かすみたいなことでね。

じゃあ、ワインは寝かせれば寝かせただけ美味しくなるのかっつーと、必ずしもそうではなくて、ブドウのタイプや個性によって早く飲んだ方がフレッシュで美味しいものもあれば、じっくり寝かせて初めて真価を発揮するものもある。ってサントリーのHPに書いてありました。

で、私のロマネ・コンティはざっと33年寝かされてますからね。もう寝たっきり。
完全に足腰立たなくなってきてる。
熟成とかエライことになってる。


私はクチャクチャになったキュロットをはき、右足を引きづり、脇腹を抱えながら、負傷兵みたいな感じで診察室をあとにした。


一週間後、満身創痍で受けた健診の結果をドキドキしながら聞きに行った。

CTや採血、婦人科健診の結果を広げながらも、医者が渋めの顔で、私の5年連続 右肩上がりの体重グラフをじっと見つめてるわけです。

「先生、どうですか?」って聞いたら、

医者は私に向きなおると、真顔で

「加藤さん、このまま体重が増え続けると、嫌われますよ」

って一言、言いました。

えー、まさかのアドバイス。医療、ほとんど関係ない。

あんだけ必死に婦人科健診をうけて、血を採って、頭のてっぺんから足の先までCT撮った上で、わかったのが「嫌われる」ってことだった。

33歳になるので、一大決心して受けた健診で、すごい雑な結果が導き出された。


それでもいつか、この綿棒も空を切るような暗黒の大地に、聖剣を刺して封印を解いてくれる勇者は現れるのだろうか。

私はその日のためにひたすら、ゴゴゴゴゴゴッつって足を開く練習から始めてる。