ボンバー

久しぶりに実家に帰ったら、お母さんの髪がまたアイパーになってた。

55歳といえども訪問看護師として働く、いわば接客業の母が、美容院に行くたびに鉄砲玉みたくなって帰ってくる。

美容院はうちのお母さんをどうしようっていうの?

毎回エレガントなユル巻きの切抜きを持たすも、明らかに、っつーか絶対に、すっごい細いロッドで巻かれてる。
これでもかって巻かれてる。
トグロでもここまで巻かねぇんじゃねーの?っつーくらい巻かれてる。

ここ数年、母の髪が揺れたとこを見たことない。


そんなアイパー(55)とご飯を食べにいった。

あたしも母もいわば同業者。
もちろん仕事の話に花を咲かせる。

『今、訪問看護に行ってる山田さん、結構危なくて、呼び出しあるかもしれないのよ・・』

『そっかー。今結構、家で看取ったりするもんねー・・』

って言って、私、気がついてしまった。


  うちのお父さん、今夜が山かもしんない!
  看護師さん父の様子がおかしいんです!
  お父さん!返事してよ!お父さん!おとーさーーーんっ!!!!
  ピ━━━━━━━━━━━━━━━━


って時に、絶対、こんなアイパー横にいて欲しくねぇ。
どうかそっとしておいて欲しい。
こんな存在感(そして違和感)ある人に、そばにいられたら、全然父親の病状に集中できねぇ。
こいつにだけは、こんな頭で「ご臨終です」とか言われたくない。


って、私が山田さんの娘だったら思うと思う。

でもね、この人、こんな頭だけど、結構やるんだよ。
結構いい目もってんだよ。
仕事のためなら自分のことなんて二の次 三の次だったりするんだよ。

ってことをわかってもらいたくて、お母さんを私の行ってる美容院に連れて行きました。

ここなら、まさか細いロッドで巻かれちゃうこともない。
ましてや、私が付き添ってる。
ちょっとでも細いロッド出そうもんなら、あたしを倒してから行け!って待ったかける覚悟はできてっから。

『あー・・結構・・細かくかかってますねぇ・・』

って美容師さんが恐る恐る母の髪を触る。
あちゃーって顔してる。

『えっと、これだったら、少しカットして、もっと太いロッドでパーマをかければ・・なんとか・・』

母の髪がカットされ、念願の太いロッドで巻かれてゆく。
どうにかなりそうな感じだと、私が雑誌でも読もうかなと思ったその時、

母の携帯が鳴った。


『え?!呼吸が止まりそう?!わかりましたすぐ行きます!』


・・・すぐ?!

私も驚いたけど、美容師さんはもっと驚いてた。

「え?すぐって・・どのくらいのお時間でしょうか?」

「すぐです。とりあえず、髪だけ流させてくれれば」


美容院初だったと思う。

パーマの途中で、中断して、乾かしもせず、動揺する美容師を尻目に飛び出して行く母。

かっこいい・・・。

自分の仕事に誇り持っちゃってる感じ・・・。


でも・・・。

カットした上に濡れたアイパーは前よりすげぇ存在感醸し出してる。
ちょっとしたエリンギみたいな感じになってる。
あんなに走ってんのに、ちっとも髪、揺れてねぇ。


山田さん、ごめん・・・。