ほらさ、人間だもん、間違いってあるよね。
意志がうまく通じない時もあるよね。
美容院から帰ってきたら、すげぇ髪型になってた、あ・た・し。
こんな髪型でよくお天道様の下、歩けたもんだっつーくらいの髪型。
いや、別に帰ってきてから初めて気付いたわけじゃないけど、
切ってる段階から、うすうす勘づいてはいたけど、
見て見ぬふりをしてたっつーか、
第三者気取りだったっつーか、
あ、でも、すげぇ直角に切ってるなあとは思っていたけど、
前髪がすこぶる上の方にあるなあとは思ってたけど、
夢じゃなかった。
髪が真っ赤に染まってるのも、照明のせいでも、夕日のせいでもなかった。
いや、さ、あたしだって止めたかったよ。
あ、ちょっと違います!とかね、
意思確認とかね、
もう少しお互い分かり合うことから始めてみよっかって思ったよ。
でもさーすげぇんだもん、アイツ。
容赦ねぇんだもん。
もうね、第一球目から、すげぇ振りかぶって行ったからね。
あーこれ、もしかしたら横綱か何かの引退セレモニーかなー?って思うくらい、もうね、バッサリ。
マゲはないけど、バッサリ。
もうね、右っかわをそんな勢いでバッサリいかれた日にゃあね、
左をおのずと出すっつーの。
この際、長さのことは諦めたから、
左右のバランスだけ揃えてー、お願いー!
って、思ったけど、この子、乱視か何かかしら?
もしくは、この日本の政治や社会のせいで、私の見る目が歪んでるのかしら?
左がねー、思いの外、突出してんのねー。
右に比べて、左がねー、すげぇ伸び率を見せてんのねー。
でさ、私だってね、必死。
これ以上の災難は間逃れたいわけです。
もうね、今ですら楠田絵里子ギリギリの範囲ですよ。
それがね、左から見た楠田と、右から見た楠田が別人のようって、最悪じゃないですか。
ビジーフォーかっつーの。
だからね、美容師さんに向けて、すげぇ左をアピールした。
左の存在感を存分に出した。
思いは通じるもので、やっと左に手をかけてくれたんだよねー。
でもね、なんつーかな、私が期待してたのは、いわゆる、微調整ってやつだったんだよねー。
ところがね、もうね、この子ったら、思い立ったら凄い行動力を発揮してくれちゃうのね。
そういうところもね、活かせる場で活かしたら、すげぇ長所だと思うわけ。
例えば、ジーコジャパンとかね、巨人とかね、そういうとこだったらね、結構いい評価を受けたと思うんだけど、
その攻めの姿勢は、美容院では、まず期待されてないよね。
しかも仕上げの段階で、その勢いは何かな?
もうね、誰もこの子を止めることはできないって思った。
右!
左!
右!
左!
あたしの頭上でね、ちょっとした桶狭間がね、繰り広げられて、
結果、さっきより20%減みたいな、ちっちゃな楠田絵里子(左右対称)になりました。
この時はもうね、あらがう気力も無く、ただ、目の前に配られたananの木村拓哉特集を読むことで、現実からの逃避をはかっていました。
「いつまでも未完成な自分でいたいゼ☆」
みたいなことが語られてましたが、
一度でもそのロン毛を楠田絵里子にされてから言ってみろや!って思ったけど、木村拓哉がパッツン前髪になったところで、私の傷は癒されないと知ってたので、
そっとananを閉じました。
「髪の色は赤でいいんでしたよねー?」
ちょっと赤っぽくて、でもぱっと見は赤いってわからなくて、光が当たったときだけ、あー赤がちょっと入ってるかなーくらいの赤で。
とさんざんしつこいくらいに説明した赤は、
揺るぎない赤に染め上がり、私を驚愕させた。
「なんか・・闘魂って感じですよね・・?」
って不安げに尋ねる私に美容師は
「あはは〜そうですね〜」
あ、やっぱり?
あたし一瞬、そんなことないですよ〜とか、期待しちゃってた。
あたしには闘魂っぽく見えるけど、
美容師さんから見たら、もしかしたらフェミニンとかプリティーとか、そういうこともあるんじゃないかなって一瞬、夢見てた。
それから、実家に帰って、父母を交えて、聞いてみた。
「あたしは楠田絵里子だと思うんだけど、父さんと母さんはどう思う?」
父「レスラー」
母「ロッカー」
もう仕事に行きたくない。