あたしのじゃない?

あけおめー。

いやー、まじでさ、カラッと明けたよね。
明けっぱなし。

つかね、明けてからね、もう結構たつんですけど、
大丈夫?明けてない子とかいない?

かくいう私とかもね、若干トレンドに乗り遅れてまして、
2007とかはね、どうにか口をついて出てくるんですが、
ほんと「平成」とか言われると、もうね目も泳いじゃうっつーか、

たしか15以上20以下くらいの辺、ウロウロしてたと思うんだけど…


あとね、まぁ年賀状とかね、来なかった。
ばっちり。
計算どおり。
私の目に狂いはなかった。


ってわけで、1月です。新年です。

色々な決意を新たにしちゃったり、
しちゃおっかなーって思ったりする節目の月です。


で、まぁ、私も年末からずっと引きづってることにケジメをつけようかなぁなんて決意しまして、

いや、もう白黒はっきりつける時が来た!なんつってね。

えっと、それが、まぁ・・・


『その手袋、あたしのじゃない?』


ってことなんですけど。


えっとね、友達のしてる手袋がね、思いっきり私のにソックリなんですよ。
もうね、瓜二つ。

いやね、友達とね、年末飲みに行ったんですよ。
手袋をしてね、飲みに行ったわけ。

んで、帰りね、私、手袋してなかった。

店に忘れちゃったかなー…なんて思いつつ友達の手見てびっくりですよ。

手袋してやんの。

あの子、手袋、してんの。


え?してたっけ、今日?

みたいな事がね、頭をかすめたんですけど、

なんつーか、その時丁度「医者ってどうしてああなのか!」みたいな込み入った話をしてまして、

「え?その手袋、あたしのじゃない?」のタイミングは今じゃねぇな。みたいな
大人フォーマルなジャッジが働きまして、言わなかったんですが、

ごめん、超気になる。それ、あたしの手袋だよね。

みたいな思いは膨らむばかりで、
凝視するのもアレな感じで、チラッチラ、チラッチラ確認するんだけど、
あーぜってぇそれ私の手袋ー。

で、言い出す機会を虎視眈々と狙ってたわけですが、

ほんと、医者がどうとか どーでもいいから、とりあえず私の手袋返してよ!
その手袋取って話ししようや!
みたいな気持ちにもなったんですが、

でもね、思い出したわけ。

そーいや、その手袋、この娘と一緒に買いにいったわー。って事を。

んで、この娘もコレと似た黒い手袋買ってたわー。って事を。


でさ、思ったわけ。

その手袋は、本当に私のって断言できる?


あ、ちょっと自信ない。

そう言えば、あんなとこにリボン付いてたかも甚だ あやしい…。

もしあれが私のじゃなくて、友達のだったときのリスクはでかい。

え?何?疑ってんの? って嫌な気分にさせちゃう。

つーか、私が盗ると思ってんの? って話になっちゃう。

いや、そんな子じゃない。
この子は、そんなことする子じゃないって断言できる。
私きっと、忘れて来たんだよね、店に。

って3メートルくらい歩いてみたんですけど、
もうね、すげぇ寒いわけです。

なぜか、いつもより指先が冷たいような気さえするわけです。

そのたびに、友達の手袋がチラッチラ気になるわけです。

もうね、熱く燃え上がる医療激論に相槌打ちながらも、
友達が今日会った時、手袋をしてたかしてなかったか、
そればっかり。
そればっかりですよ。


間違えてない?
自分のと、間違えてしちゃってるってことない?


とも思った。
でもさ、今更ね、懇々と、切々と、重々疑ってかかった手前、

何も無かったかのように

「その手袋さー、私のじゃない?」

なんてライトに聞けないわけですよ。

絶対、重くなっちゃうに決まってるんですよ。

それこそ、男寝取られたくらいのシリアスさで、迫ってしまいそうなんです。

声とかね、絶対震える。


しかも、きっと彼女を傷つけてしまいそうだし。
あ、ごめんねー。みたいな気まずいことになるし。

今、楽しいし。
お酒飲んで、いい気分ー!って彼女も言ってるし。

私さえ、ちょっと我慢すれば。
手袋くらい、また買えばいいし。
なんなら、無くてもいいし。
今日のとこお酒美味しかったねー!って言ってるし。



ごめん。
酔いなんて とっくに冷めてる。
その手袋、あたしのだよね?
あたしのだって言って。あたしのだって気づいて。

そのリボンっぽいのだって、絶対付いてた気がするし、
今日この娘、手袋してなかった気するし、
私、手袋してたし。
絶対してたし。



もう一軒行くか。


もう一軒行ったら、絶対店で手袋脱ぐじゃん。

そしたら手袋がさ、一応フリーな状態に戻るじゃん。
誰のものでもない感じになるじゃん。

そこで、切り出そうか。

なんなら、次出るときに、いち早く手袋しちゃうとか。

それが、一番お互い傷つかない、粋なやり方じゃない?



もう一軒いきました。


えーでも、今日もうお金ないやー。っつーので、
や、じゃあ、おごるよー。なんつって。

とにかく、もう、手袋を脱がしたい一心で。
手袋脱がしさえすれば、こっちのもんだ、と。


で、まぁ、彼女、いともたやすく手袋、脱ぎました。
脱ぎっぷりも最高。
手とか丸出し。

まだ、着席もしない扉の段階で、
半脱ぎだったからね。
情熱的。

ヤッホーなんつって、もうね釘付けですよ。

手袋に一目散に駆け寄りたい感じですよ。

それを、どおにか、抑えまして。
息とか、止まってたと思う。

したら、彼女、
脱いだ手袋を、おもむろに自分のカバンにしまった。




それ、ずりぃ—————————————————!!!



久々に抜け殻になりました。

もうね、着席してもさ、飲む気にもならない。
ほんと、帰りたい。
帰って泣きたい。


帰り際、1人レジで精算してると、
トイレから戻ってきた彼女が

「あ」

なんつって、手袋落としてました。

思わず拾ったんですけど、

「ありがとー」

なんて言われたんですけど、

もうね、この手触り・・、この手触り!

私の手袋が、私の手の中にあるのに、

「これ私のじゃない?」
って言い出すタイミングとしては、この時しかなかったんですけど、

なんつーか、この頃にはもう この手袋への思いが重すぎて、
一言では、とても言い表せない感じで、

いや、今これ言ったら、
自分、泣いてしまうんじゃないかな。って思って、



結局、言えませんでした。



私が返した手袋をつけた手を軽やかに振ってく彼女と、
新宿駅で別れました。



で、まぁ年も明けまして、
手袋とか買えばいいんだけど、

どれも違う気がするっつーか、
なんで、ほんと、手袋とか買わなきゃいけないんだっつーか、
買ったはずなのにーっつーか、


で、未だに、彼女が手袋をしてくる日は、なんつーか、
もうね、手袋ばかり見てしまうんです。

つーか、
「友達があたしの手袋、我が物顔で使ってるんですけどー助けてー」
みたいな気持ちになるんですけど、
「いや、でも、気づいて無いだけなの。気づかせてあげられない私が悪いの」
って気持ちにもなるんですけど、
「はたまた、あれは本当に私の手袋なのか、果たして」
という疑惑も残るのですが、


多分、迷宮入りです。





って、なんかもう、すっごい長いんですけど、
ほんともう何が言いたいかって、



『あの手袋、あたしのじゃない?』