結婚します!

一度でいいから「氷の上に舞い降りた妖精」って言われたい。

結構ね、舞い降りる気、満々。
なんだったら、2日に一度は舞い降りちゃってもいー。

メダルに対する執着なんて生まれてこのかた持ち合わせていなかった私だけど、
「妖精」にならなきゃやってられない理由ができた。



『どうせ何だかんだ言って加藤の方が早く結婚しちゃうんでしょー!』
って酒飲む度に絡んできてた友達が、

『昨日、彼氏にプロポーズされた』
つってるんだけど、今、ロイホで。


私はと言えば、同じくロイホでカレーを貪りながら、それを聞いたわけで、まさに寝てる耳に水が入ったような気分です。

いまや、私の一ヶ月のプライベートの予定の8割は、この友達とのご飯やら買い物やらに埋められていて、
もうね、25歳になってこんなこと確認するのも恥ずかしいけど、あたしたち、なんつーか、ほら、親友・・とかなんじゃないの?ってセリフをそろそろどっかの場面で言い放ってみようかなーなんて、思い始めたまさにその時期。

彼女のそんな軽いジャブに、私が返せた日本語といえば

『あ・・、そうなんだ、・・いいんじゃん?』

精一杯でした。
全腹筋総動員で搾り出した声でした。
若干、低め。

『うそー』とか
『マジデー?!』とか
『おめでとー!!』とかね、

スタンディングオベイション的なリアクションは一切取りもれた。
それどころか、「何か、窓どっか開いてない?」って言いたくなるような、急な背筋の寒気。


そんな私は一切置いてきぼりにして、
『いやね、まだ、どうかわからないんだけど』
とか言っちゃってんですけど、この人。

『いや、なんか、結婚しよう、みたいな、言われちゃって』
とかも言ってんですけど、この人。

えっと、なにつまり?

「結婚しよう」って言われて、
でもそれがプロポーズなんだか、なんなんだか「いやね、まだ、どうだかわからない」って、
どんだけ読解力ねぇの?

あたしなんて国語4だったからね、確実にわかる。

これ、絶対にプロポーズされてる、この人っ!
マジ100パー。



『んーでね!昨日色々考えたら眠れなくて・・、加藤どうしよう・・』


わー。
あたしがどうにかしちゃっていいの?

つーか、どうしようって言う状態になってるのは、今まさにおめぇより私っぽいんだけど?
あきらかに、追い詰められてる感があるんだけど。

あんた1人、結婚のチケット 手にしちゃったことで、
何か私以外の全世界中の人たちが結婚しちゃったくらいの気にすらなってんだけど。
ワールドワイドに凹んでるんだけど。


『ねーどうしたらいいと思うー?』


駄目押し。
待てない御様子。
ハーフタイム無し。


ねぇ親友、できたらもっと私を見て。
未来の旦那様の3%でいいから、私を見て。

この数分の間に、みるみる五歳は老け込んでっから。
後れ毛という後れ毛が、もっさり出てきてるから。
頬とかね、俄然こけた気してっから。

それに比べてね、おめぇの肌のキメの細かさと言ったら!
格段に輝き増した?

あたしたちの食べてるカレー、同じ食材?
それ伊勢海老じゃない?


『あーもーほんと、どーしよー』


3回目。
数えてた。

だって、それ思ってねぇじゃーん。
その顔、全然どうしようとも思ってねぇじゃーん。


文学的に述べるとさぁ、
「どうしよう」っていうのはさ、本来、どうしようも無いときに、究極の選択として、出てくる言葉なわけ?


例えば、あたしが食ってるこのカレーが、

実はカレー味なんだけどウンコだったっつーのと、
実はウンコなんだけどカレー味だったっていうのと、
さぁどっち、っつーことでしょ?


どっち取るの?っつーことでしょ。


でもさ、これ、
よく読んでみると、言い回しが違うだけで、どっちもウンコに変わりないんだよね。


そこで、初めて出てくる言葉が

「どうしよう」

でしょ?


でさ、一方、彼女の目、良かったら見てあげて。
キラキラしてっから。
それ、池田理代子かなんかが描いた?っつーくらいキラキラしてっから。

さーどっち選ぼうかなー!って腕まくりしてるようにすら見えるから。
そんな瞳で、ウンコとカレーの究極の選択をする奴はいない。
つまり、これは出来レース
私のアドバイスなんて、絶対必要ない。


でも、私は親友(未申告)。

だから、私は今日で引退のバッターにボールを投げる投手のように、
気を使って、手を抜いたようには見えないけど、
確かにストライクゾーンに収まるように、


「まぁ色々大変かもしれないけど、結婚しちゃえー」


と、優秀な発言を述べた。


彼女は満足そうに微笑むと優雅にカレー(伊勢海老入り?)を食べ始め、
私もそれに合わせウンコなんだかカレーなんだか、よくわからないものを食べた。

必死に食べた。

必死に食べながら、そっと目を閉じる。

閉じた先でも私は何かを必死に食べている。

その横で無常にもチャイムが鳴って、クラスメートたちがボールを持って校庭に飛び出していく。

私は焦りながら、何かを無理やりに溜飲し、カチャカチャと給食を食べていた。

でけぇよ、コッペパン

ちっとも飲み込めねぇ上に、唾液を全部奪われて私は思う。


例えば私が、地球で一番はじめに生まれた「女」だったとして、
果たして「結婚」という仕組みを発明することができただろうか。




ってわけでトリノを目指します。

え・・?もう始まってんの?