大根スイカ

鼻の穴に大根入れるくらい。


と中学でその物騒きわまりない噂を聞いてから10年。

この世に ちょめちょめ なんて実在しないと信じてる。


と・・思ってたけど、

何かよく耳にするしやっぱあるのかもー、いや無いかもー、でも何かあるっぽいようなー、だけど地元・中野じゃさっぱり見かけねぇー、

くらいの半信半疑。


だって、私のまわりの女子なんて、みんなもう、「今?彼氏んち」だの「彼のお母さんに会ったんだけどー」だの、鼻の穴に大根なんて軽く挿入済みの人ばっかりなわけだけど、

実際、どいつもこいつも涼しい顔して、
ほんとにその鼻に大根入れる度量があるかって甚だ疑問なんですけどー。

注射って聞いただけで耳を塞ぐあの子がとても大根済みとは思えないし、

「彼、すっごーい優しくて」って彼が、とても大根おろしてると思えない。

しかもYOSHIの小説にいたっては、本屋でちらっと見て、SFの棚にしまいましたし。
スピルバーグあたりが映像化してもおかしくないって思ってる。



でも、どうやら、あるっぽい。
しかも結構むかしから、あるっぽい。

人類はそれで繁栄してきたと言っても過言ではないっぽい。


まぁね。

コウノトリじゃないっぽい空気は読んでた。


あるんだねーそんなこと。


オーロラを見たことないけど、オーロラがあるように、
キムタクに会ったことないけど、キムタクがいるように、
私が見たことないだけで、男女の情事は存在するのだ。


(あいつら、ホントにやってやがった!)



ってことを、ようやく最近受け入れつつあるのに、
今日、郵便受けに


「子供が生まれました!」


ってハガキが!


しかも年賀ハガキで!

いや、この際、年賀ハガキだったことはどうでもいい。


こいつ、何か、産んでる!


何だかよく解らないけど、ハガキに私の友達と赤子っぽいのが写ってた。


いや産んだのか?コレがコレを!?





『鼻の穴に大根入れるくらい』


この話には続きがあった。

「鼻からー!」
「痛そうー!」
「あたし絶対ムリー!」

「じゃあ、出産は?」


『鼻からスイカ出すくらい』



出づれぇー!

つーか出ねぇー!100パー出ねぇー!




イカは出なかったけど、赤子は出てきた。


しかも出てくる場所は、もう誰もがご存じの、そこ。
永遠の渓谷。
人生の勝手口。



実は、ソレさぁ、私も持ってる。
その どこでもドアっぽいやつ、付いてた。

ここから、あれが、出た?


大根が入ったり、スイカが出てきたり、結構ざっくばらん。
人通りが多め。
そのうち、このへんにカフェとかできてもおかしくない。


いや、そんなことより・・・、



私は試しに定規で測ってみた。

写真の友達の頭 3センチ
横で微笑む赤子の頭 2.5センチ


ありえねー。
ぱっと見で、すでにありえねー。


次に比較対象として、私の実物の頭の横幅を計ってみる。
わぁー定規たりねー。
でけー。
ぱっと見で、でけー。


20センチオーバー。


かろうじて20センチだとしてもだ、
そっからハガキの比率にそって、赤子の頭の大きさを求めると

(教えて計算機・・!)

16.6666666666666・・


16センチオーバー。



出ねぇー。
ぜってぇー出ねぇー!
誓って出ねぇー!


こんなんがそうそう出てきちゃうなら、明日あたり、朝起きたら、私のズボンん中にメロン入っててもおかしくねぇー。

股ぐらが何かモッサリしてると思ったらメロンー!

もうねお母さんとかには、恥ずかしくって言えないから、ベッドにメロン隠す。
掃除すると年頃の娘のベッドの下からメロンがゴロゴロ出てくる。

もうね、お見舞いとか、ぐっと行きやすくなる。




無い。

無い無い無い無い。



もうね、殿方の秘蔵っこなんかの話と次元が違げぇ。


殿方とのことすら胡散臭いくらいなのに、
さすがに、あっから、子供が出てくるなんてことは、ない。

正直、まだ口からオエって出てくる方が信憑性ある。




つまり、これは、嘘だ。

気を許して「おめでとー」なんつった瞬間に


「ばーか、産まれっわけないだろ、そんなとこからー」

「げー、今どき、あそこから産まれるなんて信じてる奴がいるなんて」

で、ちょっと物知りな男子なんかが、

「おめぇ、そんなのができたら、気を抜いた瞬間に、あそこから胃や腸がボロボロ落ちてきてもおかしくないってことだぞ?」

「大体、そんなん出たら超痛いだろ。おまえ、お腹痛めたってのは言うけど、アソコ痛めて産んだとか聞いたことある?」

とか言ってきて、
いじめっ子なんかが

「加藤のすけべー!変態ー!」

「みんな聞いてー!加藤のやつアソコから子どもが産まれるとか言ってるぞー!」


とかで、もう、あたし赤面ですよ。
もうカーってなります。

で、


「たく、これだから漫画ばっか読んでる奴は」


ってことになる。


うん。



だから私は気を引き締めて、ハガキを見た。


「子供が生まれました!」

はいはい。

「3400グラム、元気な男の子でした!」





あーこれ、やっちゃった。

はい、嘘見抜いちゃった。


「産まれた」とかまでだったらなー、
私だって騙されてたかもしれない。
危なかった。


でもね、

無い。

3400グラムは無い。
3400グラムは、さすがに調子乗りすぎ。



加藤にさ、子供できたってドッキリすんだけどさー

いいねー、じゃあさ、何グラムにしとく?

そこそこ信憑性持たせて10グラムぐらいでいいんじゃねぇ?

あーありそう。10グラムにすっか。

いや、待てって。そんなんつまんねぇよ。

でもー、先輩、オレぇ結構、リアルに行きたいんすよねー、本物主義っつーか。

つーか、聞けよ。どうせ加藤だからバレねぇって。

えーじゃあ、100いっちゃいますかー?

いっちゃう?いやー100は無いっしょー?

ばーか、甘めぇよ。俺はこの際1000に手かけっぜ。

1000−!

せ、先輩、それ、正気っすか?1キロってことっすよ?!

(山口の奴、やべぇよ、目がマジだ・・コイツはいつか何かしでかすと思ってたけど・・じゃあ、俺も負けてらんねぇ)いや、1000じゃ逆にキリが良すぎる。3400・・でいこう。

3ぜんっ・・・(田中、おまえ・・本気なのか・・ついてきてくれるのか・・?)

3400グラムだ。(あー、山口、俺はどこまでもおまえについていく)

3400ありえねぇー。渋ぃー。(すげぇ!田中先輩も山口先輩も超かっけー)

先輩すげー!(夜王がいる!夜王がここにいる!)





騙されっかっつーの。

いくらなんでもケタ多すぎ。

3キロは ねぇよ。

3キロって、米買うと結構重いんだかんね。
1人暮らしの生活感覚なめんな。


キロとか、いくらなんでも育ち過ぎ。
お腹の中で育ち過ぎ。

それ妊娠のレベルを超えてっから。
それちょっとした在宅だから。
居すぎ。
居座りすぎ。

そんなんね、もうデカとかがね「実家のおふくろさんがー」とかスピーカーで説得してもおかしくない事態だから。


いやね私だって鬼じゃないからね、
500グラムくらいのペットボトルレベルだったらね、
そりゃ、まあ、1億5千年あれば、一回くらい何かの拍子であそこから出てきてもね、まぁ仕方がないって思うよ。


でも3キロは無い。言い過ぎ。大げさに言い過ぎ。



「あいつ、結構、昔から大げさだったからなー。」


とりあえずポツリと呟いてハガキを置いて寝ころびました。




・・・何?この全身を襲う焦燥感・・っ!!



とりあえず悔しかったので、手近にあったマッキーを右鼻に入れてみました。
入りませんでした。




いいんじゃない?大根もスイカもお手のもの。
恋する女は手品師なんでしょ。

ハガキに写る微笑む亭主は大根おろせないくらい優しそうだし、3人は腹立たしいくらい幸せそうだし。


それこそもう、タネも仕掛けもなく。