最後の一日 (30歳)

仕事から帰って、風呂場で髪洗ってたら、
髪からカナブン出てきた。


今期、二回目!
人生通算、五回目のカナブン。
ちょいちょい出てくる。

もーね、10月なわけです。
いること自体が珍しくなってきてるわけです。

そんな出来レースを制して、なぜここに。


私、仕事もね、全然 木こりとかじゃないわけで、
もーね、ナース。手とかね、すげぇ洗ってる方。

多剤耐性アシネトバクターとか院内感染とか言われてんのに、
手袋してマスクして、カナブンついてたわけです。今日一日。


可愛いは作れる!とか言って、シャンプーしてた結果がこれですよ。
全然違うもん できてる。

こんな現象、可愛い言うの、ユパ様くらいですよ。


あと、まあ、地味に傷つくこととして、いつもカナブンが死んでる。
死亡発見。

骨をうずめる場所としては、不向きとしか言わざるを得ない。
降り立ってもいいから、飛び立てよ、と。
なに永住してんの、と。


虫が嫌いすぎて、アウトドアなんてほとんどしたことないのに、
むしろ最近、虫のほうが、すげぇインドア派すぎて困る。ぐいぐいくる。
困るなー。


そんなことを思いながら、まあ、一っ風呂あびてね、
暑くてね、裸一貫で、クーラーつけて、
ショーシャンクの空に!つって風を浴びて楽しんでたら、
風の出るとこからゴキブリが落ちてきました。


親方、空から女の子が!


飛行石持ってないバージョンだったみたいで、9.8m/sくらいで落ちてきたんですけど。鳩胸に。

ゴキブリが、もう1番苦手で、殺すとか以前に関わりたくないし、
不可侵条約とか結べるなら結びたいくらい、
もうほんと、頼むよ、お願いだよ、近づかないでよ。

って思って暮らしてるのに、がぜん接近戦に持ち込まれる。


ん――――――っ!!!


つって飛びのいたんですけど。ダルシム?ってくらい移動したんですけど。

見失った!って思って、キョロキョロしたら、
左胸に完全に何らかのエンブレムが付いてるわけです。

あれ?乳首の座標ずれた?っつーくらい。
それを右の乳首と点で結ぶと、これがあの夏の大三角形かしら?ってくらい。


もう脊髄反射 超えちゃったんじゃないかなってくらいの速さで振り払ったんですけど。

振り払った先がまさかの足の甲で、
ギャって足を蹴り上げたら、反対の膝に乗っかって、
ザッケローニから声かかるくらいのリフティングをご披露した末、
二手に分かれた。


ドラえもぉ〜ん!!!


私は台所の下から殺虫スプレーを取り出して、
へっへっへ〜って部屋に戻ると、

アイツはアイツで私が先月自分へのご褒美で購入した低反発枕の上にいて、
撃てばいいじゃない、ただし私を撃ったら、この枕が果たして?的な顔でこっち見てて、

こんな時に私がシティハンターだったら、
もう、ほんと、ゴキブリだけ、寸分の狂いなく撃って、
むしろゴキブリの右の前足だけ寸分の狂いなく撃って、

戦意喪失したゴキブリがうなだれたところで、Get Wildとかが流れればいいのに。


って思いながら、スプレーの引き金引いたわけですが、
普段人差し指なんて滅多に使わないから、空前のソフトタッチで、
殺虫剤がちょっとした夜霧みたいになった。

なんかフワッとアイツに降り注ぐ前に、
アイツは10センチくらい右によけてたし。

正直、躊躇したってのはある。

だって、殺虫剤かけたときのゴキブリがこの世で一番怖いし。
すげぇ動きするし。
なんかスター取ったマリオみたくなるし。

こんなワンルームでアイツにスター取られたら、
私なんて ひとたまりもないし。


んで、あ、そうだ、ワンルームだしバルサン焚いちゃおう!


って気づいて、もう天才。加藤、天才。今夜、抱かれてもいい。
って思って、バルサン焚いた。



で、部屋出て、弟に勝利の一報をメールしたわけ。姉の勇姿を。
バルサンでゴキブリに価値ある一勝。敵は本能寺にあり

したら、弟からすぐに返信がきた。
「火災報知機ちゃんとビニールで覆った?敵は本能寺にあり


時よ止まれ。


どうして、どうして、いっつも、どうして・・・!
って半泣きでドアを開けたら、もうバルサンってすごいの。
ゴキブリ1匹に本気なの。

トイレにかかってる2年くらい洗ってないタオルで、
口を押さえながら、必死でつかんだサランラップ持って、
突入した。

これ、もう漫画とかで、「まだ中に子供が・・・!」ってレベルの
突入だよ。

自分の平凡な人生で、ここまで煙に巻かれた部屋に突入する場面が
巡ってくるとは思わなかった。
そういう役割は絶対まわって来ないと思ってた。

もー!絶対!生きて!帰る!つって。
THE! LAST! MESSAGE! 海猿!つって。(この秋、2回目)


んで、火災報知機つったら、また天井についてるわけです。
近くて遠い国、天井。
そこに潜む火災報知機。


で、とりあえず、火災報知機に手が届かないので、
家にある唯一無二の椅子 まる椅子を探したんですけど、

煙で、ぜんっぜん見つからなくて、
あと、もう私が死んじゃうって思って、
つーか、口に当ててたタオルのニオイがバルサンを超えてたし、

もー色んな意味で252−!って思って、窓を開けて煙を出したら、
その脇から、さっきのゴキブリ逃げてってるから252−!

せめて火災報知機は!つって、丁度見つけた椅子に飛び乗って、
火災報知機にラップをしようと思ったら、
まさかの猛暑でラップ溶けてた252ー!

ラップの端がまったく見つからなかったよ。

ここにきての、細かな手作業。
「あー昨日、爪切っちゃったから実力半分も出せねー」ってセリフは、
海猿じゃ出ないから必見。

んで、サランラップで手間取ってるうちに、
バルサン普通に終わってた。


椅子の上で呆然としていると、
煙の消えた窓から、うす曇に日が射す中野の町が見えた。


そうね、ゴンドアの谷の歌にあるもの
土に根を下ろし風と共に生きよう
種と共に冬を越え鳥と共に春を歌おう
どんなに恐ろしい武器を持っても
たくさんのかわいそうなロボットを操っても
土から離れては生きられないのよ!




ええ、そんな私ですが、明日でついに30歳になります。

ついにっていうか、ついでに。
買い物のついでに。
そんな感じでね。