幻の「ライラの冒険」

映画、見に行きたい。

映画、見に行って、

「この前、映画 見に行ったんだけどさー」

って言いたい。


これ魔法の言葉だと思う。
これをチョロっと言うだけで、

「何 見にいったのー?」

「誰と行ったのー?」

「で、どうだったー?」

って三つは質問される。
注目の的。
仕事場の休憩室の話題をさらえる。


で、私ね、先月くらいから、外科病棟に華々しく異動になったんですけど、
はい、華々しく。

いや、まぁ、華々しいは華々しかったんですけど、
いや、なんつーか ほんと華々しかったんですけど、
送り出す方は。

でも、えっと、迎い入れる方は、案外シビアなムードが漂ってまして、

若干の「つーか、今度来た加藤って誰?」みたいな空気が立ち込めてまして、

「つーか、加藤だっけ?伊藤だっけ?あれ、佐々木じゃなかった?」
みたいな空気が立ち込めてまして、

完全に、思わぬ来客みたいな感じなのね。

休憩室とかでも、もう、ドアを開ければ、
あ、呼ばれてない飲み会に来ちゃった?
みたいなムード。

私の訪れによって、明らかに、会話が途切れたからね。
明らかに話題、変わったからね。


そんな私ですが、そろそろね、休憩室デビューしてもいいかなって。

そろそろ、一回くらい、せめて5分くらい、何か発言をしたいなって。

ほんと、「今日は名前だけ覚えて帰ってくださいー」みたいな感じで、
とりあえず、軽くトークを交わしたいなって。

なんなら、すげぇ印象的な話しとかしちゃって、
んで、歴史番組のように
「のちの 加藤である」
みたいなデビューもちょっとアリかなみたいな。


で、まぁ話のツカミとして、
冒頭に述べた通り、「映画見に行ったよ大作戦」を思いつきまして、

映画、見に行きました。


って、言いたかった。
言い切りたかった。
「映画、見に行ったぞ!」って。

言い切れなかった。

つーかね、行ってたんだよ。気持ちは。
前売りのチケット買うくらいのモチベーションは絶対あった。
あいつ いつ行っててもおかしくないな、くらいの勢いはあった。

むしろね、行けなかったのが不思議なくらい。


だからね、お布団って、すげぇなって。
ただ驚くばかり。
お布団で、完全に鎮圧されてた。



で、次の日、仕事行ったんですけど、
その昼休み、休憩室でね、
案の定、細々とカップラーメン食べてたんですけど、

先輩の1人が言ったんですよ。


「私、ライラの冒険 見に行きたいんだよねー」


あ——————————!ですよ。

テンション上がった。

興奮した。

ライラつったら あれ。
私がまさに、昨日見ようと思ってたヤツなんですよ。
ライラの冒険〜黄金の羅針盤〜」でしょ?

もうね、思ってもないチャンスに

「それ、私、昨日見たんですよ!」

って、言ってた。ほんと、ツルっと言ってた。


興奮して、間違った。

見に行こうと思ってたんですよ。だった。
思わぬショートカット。

魔法、使っちゃった…。
つーか、魔法使えないのに、自作のステッキ振っちゃった。
内心、呪文とか、もう、やっつけ仕事ですよ。
ほんと、祈るように、ブツブツ唱えましたよ。


でもね、さすが注目作だけあって、
先輩方の食いつきの激しいこと激しいこと。

軽くあらすじまで聞かれちゃってんですけど、
正直、登場人物、ライラくらいしか知らねぇー。

あ、あと、羅針盤も出るらしい。どうやら黄金らしい。

って、知識その程度。
題名から察せられる程度のレベルですよ。
それをもう、フル活用。
サ行変格活用くらいの変化は付けてお送りした。


というわけで、


ライラの冒険〜黄金の羅針盤
(見てない映画を勘でレビューする in外科病棟)


ライラの冒険
ってことで、間違いなくジャンルはアドベンチャー

ライラが冒険することに、間違いないわけです。
で、まぁ、見どころは、その冒険具合になるわけですが、
どうやら察するに、もうね、世界を救うか滅ぼすかが かかってるらしい。

冒険としては、一番かかっちゃ面倒なジャンルですよ。

オーロラを見たい!とか、アルプスを制覇したい!とか、
そういう趣味が高じて・・みたいなことじゃないですからね。
世界の命運ですから。


で、選ばれたのがライラ。

11歳。


期待の新星もいいとこです。11て。

もうね、体育着に着替える時に、
教室で着替えるか更衣室を使うかで揺れる微妙な年頃ですよ。

それが、植村直己アルピニスト)や関野吉晴(グレートジャーニー)を押しのけての当確。

でも11なんて、冒険とかね、絶対なれてないんです。
しおりとか見て、リュックサック用意するのが精一杯な年代。
完全に、バナナはおやつ世代です。

で、CMを見る限り、なんか熊っぽい動物に乗ってるんですけど、
案の定、手ぶら。
見た感じ 身ぃひとつなんです。

なんかね、映像はちょっとした南極っぽいの。
完全に地面とか氷。

もうね、食料とかね、なんなら明日穿くパンツとかがね、
非常に心配されるんですけど、
ライラ、完全に、手ぶらでスキーな感じなんですよ。

その辺もね、見どころ。
冒険が佳境に入るにつれて、ライラのパンツも間違いなく佳境に入ってきます。
パンツ重ーくなってくる。


でね、そんなライラを導いてくれるのが、
アレです。
羅針盤です。


私がライラだったら、多分、
またまたぁ〜、って言う。
いやいやいや、羅針盤て。って言う。

もうね、黄金かどうかなんて、正直 問題じゃない。

世界を救うか滅ぼすかの大勝負ですよ?

もうちょっと、導くにしたって、もうちょっとあるでしょ。

言っとくけど、私なんてグーグルマップでも、割と彷徨っちゃうタチなんですよ。

それが、羅針盤でお願いしますって、どんだけアバウトなの。


ほんとね、ロード・オブ・ザ・リングの時もね、口酸っぱく言ったんですけど、

リングぽっきりじゃ、そうそうロード・オブ・ザれねぇよって。

あれ、リング授かったのが私とかだったら、
三部作にならなかったと思う。

「やべぇ、昨日リング手に入れちゃった」
「まじでー」

共演者1人。
ロード・オブ・座談会。


でも、結局、見事にあいつらは最終章まで漕ぎ付けてたから、
すげぇ。

渡しとくもんだね、指輪とか。


で、まぁライラも頑張れよって話です。

ほんとね、羅針盤とかね、ザッとした感じで導いてくれると思うので、
パンツとか、多めに持って行った方が間違いないよ。

あとね、針くるくる〜ってなったら、多分、そこ樹海。





って話を、口とかカラッカラになりながら、一生懸命してたら、
あとから来た後輩っぽい子が軽く

「え、でも「ライラの冒険」ってまだ公開されてないですよね?」

って言ってた。

私の羅針盤も、針くるくる〜ってなった。



それが二月のことでした。

のちの 加藤である。