どこか遠くへ行きたくなりたい

いつでもちょっとだけ びびってる 自分を卒業したい。


新幹線で隣になった人がね、もうねコエー。


ヤンキーとかね、ヤクザとかね、そういうのを超えてね、

なんつーかな、ギャング?
思いっきりギャング。

イメージとしては、
骨付きの肉とかをね、お召し上がりになってそうな。
酒とかをね、水のように、お飲みになってそうな。

いわゆるギャング。


とりあえずね、筋肉とかがね半端ない。
どっかの番組で番付されてんじゃないの?っつーくらいの筋肉。

どのくらいかっつーと、今ここ二人がけの座席なんだけど、
明らかに私の座席の3分の1が、ギャングの筋肉に占領されてる。


でね、やっぱね、こっちの座席まで侵略されてるよーっていうのをね、
なんつーかな、当たり障りなくね、ほのかに分かって頂きたいじゃないですか。

ほらね、お互い座席指定の料金を同額払ってるわけだし、
同じスペースをね 分け合って旅をしたいじゃないですか。

あたしとかね、そうそう小柄でもないわけですよ。
空間のスペース使わせたら右にでないくらい、骨太な体付きなわけですよ。

それがね、今、そちらさんの隆々(りゅうりゅう)とした筋肉のせいで、
見たこと無いくらい華奢な肩幅になってるんですよ。
加藤あいも真っ青の華奢さ。

明らかにね、両肩の肩関節がね、おかしい方向に曲がってるんですよ。

この姿勢で二時間耐えたとしたら、私はね、中国の雑伎団あたりに引き抜かれちゃいますよ。


だからね、なんつーの、視線を送ったわけ。


あ、間違っても、ガンとかね飛ばしてません。
相手 ギャングですから。
そういえばドラゴンボールの「ギニュー特戦隊」あたりに、
こんな子いたなーっつーくらいのギャングですから。


あのね、遠慮がちに視線送りました。


あ、あれー、なんだろう、
なんか当たるなー、いやー、なんだろうなー、あはは・・
ぐらいの視線。


でね、視線送ったんですけど・・あーあれー?みたいな。

あれー、なんでだろうー、私いま、山間に向かってるはずなのにー、あれー、
なんだろうー、碇(いかり)のマークが見えるなーって。
海かなーって。


やー、彼のね、見まごう事なき彼の右腕にね、わー、立派な碇がね、これ描かれてるんですよ。

もーポパイ状態ですよ。
ほうれん草も食べさせてないのに、ひとり勝手にポパイってる。


でね、その碇マークの上らへんに、
あードクロかなー・・ドクロだろうなー・・みたいな方がね、鎮座されてまして、

あーこの人、ギャングじゃなかった。海賊だった。

ってことに気が付きまして。

あー海賊王に俺はなる!とか思ってる人の気が知れないなーと思うと同時に、
海賊のくせに新幹線乗ってんなよー。と思いつつ、

とりあえず、熱視線大作戦は諦めました。


とにかく、二時間。

私は、窓の方に上半身を半回転することで、肩幅をうまく調節し
争いや諍(いさか)いを回避しました。


回避できたはいいんだけどね、
なんつーか、私も人間です。

何はせずとも、お腹とかねすいてきちゃうわけ。

駅弁とかね、楽しみにしてたわけ。

もうね、車内販売の人は2往復くらいね、してくれちゃってるわけなんだけど、

通路側の海賊ばっかさー、ビールだの押し寿司だの春の彩り弁当だのガンガン頼んでくれちゃってさー、

私なんて お水一滴頼むタイミングを逃しちゃってるからー。

セールスレディーの人もさー、「そちらの方は?」くらい言ってくれりゃあいいのに、
海賊との接触を一刻も早く切り上げたいばかりに、
ノールックですよ。ノールック。
ノールックでもいいから、パス回せっつーの。

餓死寸前にようやく頼めたのはウーロン茶一缶ですよ。

だって、コエーの。
ウーロン一缶が自分の前を遮るだけで、海賊の胸板10センチくらい膨らんだ気がしたかんね。
鳩が出てきてもおかしくないくらいの鳩胸に、販売員も早々に立ち去って行きました。

仕方ないので、戦利品ウーロンをむさぼりつつ、山間の美しい風景を眺めておりました。


あ・・・トイレ・・。


もうね、あーーーーこんな自分がイヤーーーーー!

ウーロン茶を食して数分、もートイレ行きたくなってやんのー!


あんだけ、新幹線に乗る前、再三に渡ってトイレに行っていたにも関わらず、またトイレ。

どんだけ小袋な膀胱してんの?

っつーか、通路側の海賊を超えて、トイレに行く自信がさっぱり無いんですけどー!

あー、もらしてしまうかもしれない。

もらしてしまうのは、まだいい。
もらしたもんが海賊にかかったら・・・。

あーしからば・・このウーロンの缶に・・・!

と思った時、天に声が届いたのか、海賊が席を立った。


クララが・・立った・・。


全然クララじゃないけど、クララが立ったくらい嬉しー!


あー、そういえば、おめぇもビールがつがつ飲んでたもんなー!わかるぜー!その気持ちー!

私もその隙に席を立って、スッキリ。


やーチョレーチョレー。
所詮、人間。
人類みな兄弟。

なんて思って、席に戻ってビックリ。
ビックリっつーか、当たり前なんだけど、
もうね、兄弟のやつね、席についてるわけ。

先に席に付いちゃってる。


あのね、アピールはしてみた。
結構ねアピってみた。

戻ってきたことをね、訴えてみた。

でも、この人ねー、寝てるのねー。
目をね、閉じてるのねー。

私がね、戻ったっつーことにね 気づいてないし、もうね、座席とかね思う存分占領してるのね。

私だって負けじと、結構足音させたんだけど、
なんなら目の前でちょっとしたタップをね披露してみたいんだけどね、

いやー眠り深い。
ついさっきまで、おめぇトイレ行ってたのに、その眠りの深さはねぇよっつーくらい眠ってらっしゃる。ノンレム。

仕方がないので、いや、もっと早くこうしていれば良かった。

私は、違う空いている座席に座った。



う・・・


うわーい!すげぇ、ちゃんと一人分!快適!

しかもリラックス。
何らかのマイナスイオンが流れてんじゃないかっつーくらいの
リラックス。

と思ったら、なんか眠くてね、寝たわけですよ。
安眠。


それがね、なんか押されるんですよ。

何かね、前に味わったことあるような押されかた。

なんだっけ、これ・・この感じ・・?
何らかの番付をされちゃいそうな感じ・・?と思って起きたら、
横にね、またギャングですよ。
しかも別の。

もーこの展開飽きたっつーの。

しかも、横にもいるんだけど、つーか、三人掛けだったんだけど、
横もギャングだけど、横の横もギャング、みたいな。


あーあたし、新幹線じゃなくて海賊船に乗ったのかもー。
                    かもー。
                  かもー。


(大阪着)


2時間半の旅を終えて大阪で降りたら、ホームに垂れ幕がかかってました。


「名古屋アイスホッケー部 必勝!」

みたくなってました。

そこに続々とギャングやら海賊やらギニューやらが集まって
エイエイオーとかね、言ってました。


必勝ね・・。

私はやっと着いた大阪で、憧れの駅弁を買いつつ、

勝つ、おめぇら ぜってぇー勝つ。


て思いながら、部員達のせいで、思いっきり乗り過ごした京都行きの切符を買いに行きました。


初めての一人旅。

「いつでもちょっとだけ びびってる 自分を卒業したい」

と始めた一人旅。


さっそく乗り過ごした新幹線。
これから京都を一人歩きする自信は、とうになかった。

切符売り場で

「どこまでですか?」

と聞かれ、思わず

「東京まで」

と、言ってしまいました。


思わずというか、びびって。