マジカル加藤 〜ドライヤーで危機一髪の巻き〜

三十路を迎える前に、一度くらい魔法少女に任命されたい。


いや、実際ギリだと思うんですよ。

魔法を使って人を助けたり、
イザコザを解決したりっつー年頃としては、
もうね、今しかないんじゃないかなって思ってます。

これを逃したら無いなって。

もうね、三十過ぎてくると、
イザコザの度合いもグッと根深くなるわけじゃないですか。
魔法よりお金がコトを解決してくる年代に差し掛かってきたり、
もっと言えば、時が解決してくれる、なんてセリフが口から自然と
こぼれちゃってもおかしくないわけです。

はたまた、下手したら、呪文だってぐっと覚えにくくなってくるし、
変身するものだって、やっぱりT.P.Oとか人様の目とか微妙に考えちゃって、
割と無難な選択になってくるじゃないですか。
アイドルとかチアリーダーとかを、
そうそうチョイスできなくなってくるじゃない。


だからね、もう、魔法を使うとしたら、今年来年くらいまでだなって。
そろそろね、親の喜ぶ顔とかがね、求められてくる時期になってくっからね。


で、まぁ、奇跡的に任命された際には、
もうね、ふるって身の回りの問題に白黒つけていきたい。

どんな小さな悩みも真剣に取り組みたい。


したら、まぁ、弟がね、さっきっから、
横で「んーんー」考え込んでるから、

「どうしたの?」

って、魔法少女的に声をかけてやったわけ。

したら、

「このイオンドライヤーって、ほんとにイオンとか出てんの?」

って、そこー?
そんなとこ、悩んじゃったー?
魔法使いづれぇー。


確かにね、うちの実家のイオンドライヤーはすこぶる怪しい。

まず、イオンが出てきそうな出入り口やら、
イオンを作ってそうな部品が全くない。

説明書には、そのへんの説明は結構サラッとされてて、要約すると

「大丈夫、中でちゃんとやってっから」

みたいなことが、書かれてた。

・・うん、書かれてはいた・・んだけど、ほんと、中がね、丸見えでね、
ドライヤーによくあるクルクルーってなってるワイヤーっぽいのしかね、
ないの。

でもね、パッケージとかね見るとね、
なんかめっちゃ出てるっぽい感じになってんですよ、
粒子みたいのが、それはもう張り切って出てきてて、

えっと、目には見えないんだけど、こんな感じでめっちゃ出てるよ!

みたいな暗黙の了解がなされてるんです。


いや、なんつーかね、ここまで大々的にね、
イオンイオンつってるからには出てると思うよ、イオン。

でもね、なんていうかな、ほんとさ、申し訳程度かもしれないっつーことはある。
ニ三個出しておけばいい、みたいな。

イオンもイオンでさ、もーめんどくせぇ、くらいな感じで、
重い腰をあげて出てきてんのかもしれないし、
なんなら、今日はだりぃーから休むわ、くらいのバイト気分な
イオンだってあってもおかしくない。


と、考えまして、弟に、

「いつ出てきてもおかしくない。」

って伝えた。
したっけ、

「いつ出てきても大丈夫なようにしておく」

って言ってた。



案外、魔法いらねぇーな、って思った。