あしたもジョー

今、世間で大注目の商品といえば、
やっぱTOTOのネオレスト・ウォッシュトイレだよねー。

なんせあのハイブリットエコロジーシステムが搭載されたおかげで、
世界初の洗浄技術を実現することができたんだよー。


で、世界初の洗浄技術が何かについては、
えっと、もう、ものすんごいんです。多分。

えっと、洗浄の中の洗浄。
いや洗浄というより、むしろ浄化と言っても過言ではない。多分。

何かが、もうガーってなって、
多分、肝っ玉母さんみたいのが、
もうすっごい勢いで「洗っといたからね!」みたいな。
そんな洗浄力。


そのくらいの何らかの洗浄力でね、トイレの新世代の名を
欲しいままにしてくれちゃってるんですよー。

キャッチコピーは、なんと

「90年かけて見つけた答えです。 (NEOREST)」



おい、ちょっと、と。
90年かけて、洗浄力だけ?
洗浄力一本。

おめぇ、ちゃんと考えてた?
ちょっと寝ちゃったんじゃねぇ?


あのね、私がね、何を言いたいかって、
もう男子便所のことなんですよ。

男子便の男子便器のことなんです。
あの子のことで頭がいっぱいなんですよ。

で、そちらさんは、あの子のことを90年間、
一時でも考えてくれたことあったー?ってことなんです。


もうね、ぶっちゃけハイブッリトとかね、ほんとありがとう。
洗浄力とかね、便座のあたたかさとかね、もう存分に味わった。
正直、そうそうハイブラなくとも、女子として満足してる。

でもあの子見てあげてー。
男子ベンのあの子見てあげてー。
死んだ魚のように壁に張り付いてるあの便器たち見てあげてー。


あたしが男子便器だったら、ほんと、隣の便器にチョー話しかける。

「ねぇ、ちょっと。ちょっと。」

「なんだよ?ちゃんと前向いてろよ」

「ちょっと、見て?見て?
 オレの下、ビチョビチョなんですけどー」

「あ、マジだ」

「軽く乱射」

「つーか、ちょっとこっちの方まで来てんじゃーん、
 テンション下がるわー」

「だいぶ飛距離が出たね」

「つーかさ、そういや前から不思議だったんだけど、
 ちょっとさ、オレの足元、見てくんない?」

「な、なになに?」

「なんかさー黄色いコロコロしたの置いてない?」

「あ、ある。何それ!
 つーか、オレにもある!何コレ!
 すっげぇレモン臭!」

「なんかさー、みんなコレ狙ってくんだよー。
 で、当たるとちょっと嬉しそうなの。なんで。」

「つーかさ、このご時世じゃん?
 正直さ、CMとかで置き方ファブリーズとか言われてんじゃん。
 なのにこいつ、空気中で匂いをキャッチとかする気、全然ねぇな」

「な。」

「つーか、掃除のおばちゃん、早くこねぇかなぁ・・」

「明日の朝まで来ないって」

「マジかよー。
 つーかさ、つーかさ、東口のやつらのこと知ってる?」

「え、しらねぇ」

「抗菌コートされたって」

「マ、マ、マ、マジでぇー。
 憧れるなぁー、抗菌とか除菌とか滅菌とか・・」

「オレこないだ彼女にさー『この常在菌!』っつわれたもん」

「なー」



私はね、気付いちゃったんです。

今や、デスクに座りながらにして、世界の情勢が解ったり、
ネットでお買い物が出来ちゃう時代なんです。

そんなこの21世紀にね、なんで、立ってしてんだ、と。
なんで、トイレだけいつまでも立ってやってんだと。

しかも、大抵のことは緻密に計算して
コントロールできるようになってるこの時代に、
Wiiの「ウイニングイレブン」なんて、いまや
ボール持ってない選手の動きまでコントロールできるこの時代に、

こと男子便器においては、だいたい7割弱 入ればオーケーみたいな曖昧さ。



例えばね、私たち女子なんかはね、いかなる緊急の場合でも
便器の外に何かが漏れるっていうのは、女子としての有事ですよ。

よもや、そんなことが起ころうものなら、即刻、証拠隠蔽ですよ。
すさまじぃ勢いで拭き取りますよ。


かたや、男子。
拭くものすら置いてない。


つーかね、男子便だけね、やたら難易度が高すぎるんですよ。

あんな高いとこからね、あんな射的ゲームか何かみたいにね、
おもむろに出してね、全部入るかって不可能なわけですよ。

万が一、入ったとしても、こう、反射っつーのかな、一種のバウンドっつーのかね、
なんらかの飛沫がね、はみ出ちゃうことは、想定の範囲内なんですよ。

だからって、「そのリバウンドを俺がもらった!」っていう
井上雄彦マンガみたいな人はそうそういないわけで、
その水しぶきに関しては完全にノータッチ。


もうさ、「ガソリン税」とか「防衛省の問題」とか「自衛権」とかね、
すごくね、熱く男子たちは語ってくれるわけですが、
トイレにオシッコが全部入らないことに関しては、案外ゆるい空気が漂ってる。
全く論議されない。


男性サイドで頭がいい人なんて、もうね、超いるわけ。その辺にいる。
弁護士だって、大学の教授だって、ノーベル賞受賞した人だって、いっぱいいる。
アインシュタインとか、ニュートンとか、全然いた。

その方々、全員、ちゃんと立ってしてるって。
素直!
す、すごい。
ぶ、文明が一箇所だけ、微動だにしてない。


なのに女子便器には、いまやビデの時代到来ですよ。
ティッシュだけでは、あきたらず、ついに小まめな水洗いですよ。

一方、男子は2、3回の軽い素振りだけで、トイレ終了ですよ。
確実に重力頼み。
月とか行ったら通用するのか。


それでも、トイレを一歩出ると、すごいわけですよ。
バチスタとかしちゃうわけですよ。
ハットトリックとか成し遂げちゃうわけです。
でもね、トイレは案外びちょびちょなわけです。

もうね、金田一とかね、この山荘で起こった悲しい事件の犯人は果たして一体誰なのか解き明かす前に、じっちゃんの名にかけて便器に100パーセント入れてこってことなんです。


つーか女子の立場からして言えば、チャック下ろせばズボンも脱がずに出せるっつーその様式すら、
もはやトンネルを抜けると雪国くらいの感動ですよ。
羨ましいつったらない。
なにその銃刀法違反。



でもね、そろそろさ、改革の時期は来たと思う。

もうねハイブリットエコロジーシステムの時代が来たんです。

今まで殿方は、十分ね、頑張ってくれたと思う。
色んな名場面見せてくれた。
ほんと、今までありがとー。
あの後姿、私 絶対 忘れないんだからー。


うん。


じゃ、そろそろ、座ってみようか?

座って、コトを遂げてみようか。

便座もイイ頃合にあったまってるよー。



ってことを、昨日の夜勤で必死に入院患者のおじいちゃんに訴えたんですけど、

「いや、立ちます」

の一点張りで、
何コレ震度5?くらいのガクガクした足取りでトイレに行き、

あと一歩でグランドスラム!っつー 志し半ばでね、
すげぇ切羽詰った様子を見せまして、

私も慌ててしゃがんで彼のズボンを下げつつ、
便器までの若干の距離感に、

「お願い!田中さん、もう一歩前へっ!」

って声援を送ったんですけど、掛け声 虚しく、
田中さん、淡い放物線を描きつつ、若干の飛距離を出しながら、

僭越ながら、私の白衣が桜木花道並にリバウンドを取らせて頂きまして、
ほんとリバウンドを制する者は試合を制してた。

そんな私を横目に、何かを成し遂げたかのような
満足そうな田中氏の横顔に、
私もキャッチコピーが浮かんだよ。


「90年かけて見つけた答えです。 (田中三郎)」