東京ワンルーム的情景

私、1人暮らし。

自堕落と官能の入り交じるこの東京という街で、ジャパネット高田が売り出したくても売り出せないこの冬一番の防寒具「彼氏」を持たずに、冬を越えるのも、もう、慣れっこ。

1人暮らしをして本当に良かったと思うのは、イベントゴトに対決する時に他ならない。

もうさー社会的イジワルとしか思えないんですよね、クリスマスとか誕生日とか、体育の日とかその日に因んで出来てるはずの記念日をあっちこっちに動かして作り上げる三連休とか、さ。

望んでない人もいるんだぞ!っと。
国家的に粋な計らいとか、ほんと地獄を見てますから。

でもね、なんつーか漂う空気?マスメディアの温度?それに踊らされる人々?
それに抗えないA型のあたし。

だからって。

「誰と過ごすの?」とか「どこいくの?」とか、軽い気持ちで触れてくれるな!
話すネタがないときに、そんなに親しくもない人に、
「・・あ、・・や・・、それがまだ決まってないんですよー・・」
とか何でこんな辱(はずかし)めをっ!

ってか、「決まってない」っつー、いかにも誰かと決めなきゃいけない予定があるような遠回しな見栄は、むしろね私の空気を読んだ気遣いですから。

だからあなたもね、「えーえー、どういう候補があがってるんですかー?」とか無邪気に聞かないの!食いついてこないの!
よく見て私の顔!左斜め下向きだから、思いっきりクロールで目泳いでるから。
勘弁してよ。
もしホントにそんな予定が上がってるならホント一番にあなたに教えるから、朝イチで教えますから!


窓越しで頬杖ついて、人差し指に小鳥を乗っけながら聞きたい。
ねえ神様どうして?

二股かける女は最悪とか、不倫とか冗談じゃないとか、世間じゃ言ってるくせに、
悪いこと一つしてない独り身の、肩身の狭いこと狭いこと。

最近の世の中じゃハタチ過ぎて、「彼氏いない」とかはもう言ってはならない禁断の言葉みたくなってて、合コン以外でこの言葉を発した時のまわりの目って言ったら、芸をしないセイウチを見たような目。

っつーかさ、普通のセイウチは芸をしないんだよ。野性のセイウチはしねぇの、芸なんて。

だからね彼氏っつーのもモトモトその辺に生えてるもんじゃないの。
作らないと、いないの。
んで、私は作ってないの。
ラーメン屋にクリームシチューがないのと同じで、うちでは取り扱っておりませんの、残念ながら!


そういう社会的がんじがらめの全てを、1人暮らしは闇に隠してくれる。
臭い物に蓋してくれる。
あたしに彼氏がいるかいないかなんて、迷宮入りにしてくれる。

家にいた時は、
「あんた、クリスマスに会ってくれる人もいないの!」
なんつって掃除機でケツをガーガーやられて、温かい布団ははぎ取られて干されて、窓という窓は開け放たれて、入ってきた空気の冷たいこと冷たいこと!


でもね、1人暮らしは私が王様。

クリスマスに一人でも、そんなこたぁタンスも本棚もカーテンも知らない。我、関せず。ベッドだって無駄に張り切ったりしない。

早く帰ってきても、何の重圧もなく私を迎えて、街のイルミネーションから隠してくれる。
やった!



でも、1人暮らしはね、その寂しさはね、ふいな瞬間、思ってもないことをきっかけに、どっと溢れて私を飲み込むことも、また事実。



「やっほーカップラーメン食べようっと!」


なんつってツルっと滑ってラーメンの汁がソファーやベッドや、お気に入りの本にかかってひっくり返って空っぽになったラーメンのカップを見た時なんて、もうっ!

自分の握力の弱さと、いや、そんなか弱くないくせに、むしろ男の前で「・・あ・・」なんつってよろめいたこともない強靱な肉体を持ってるくせに、こんな誰一人見てないような所で隙を作ってか細い声を上げてみたって、そんなのお蔵入りよ!


っていうか、絶句。

カップラーメンとその他諸々が、私のお気に入りの家具たちに、びぢゃーってなってる有り様に絶句。



もうっもうっ!!


・・・・大好きな彼が知らない女とベッドでいちゃついてる所を買い物袋持って目の当たりにしたら、多分こんな気持ちだろうな・・・っていうか・・あたしってそんな相手どころか・・カップラーメンすら満足に作ることもできないなん・・て・・・


とんこつの匂いがぷーんと漂うワンルームの部屋に逃げ場はない。
びちゃびちゃの布団も床にこんもり浸かった麺からも目を反らしたい。
でも私が片づけなければ誰も片づける人はいない。
手近にあったバスタオルで床を拭っても拭っても・・
あっ!!お気に入りのスカートまでっ!!
そのスカートを床にほっぽり投げといたのも、この私。誰も責められない。

・・あー・・もう・・・

ラーメンの汁を拭いながら、私を振っていった男達を思う。
ティッシュでグダグダになった麺を拾いながら、小学校の組み体操に骨折して出られなかった日を思い出す。


悲しい。
泣きたい。
ベッドに頭を伏せてワンワン泣きたい。


でも、このとんこつスープを無視しては泣けない。

この捨てた麺だってすぐにビニールに包んで口をきつく縛らなくっちゃ、明日には部屋中がとんこつ臭になってしまう。

この汁を吸ったバスタオルだってすぐに洗わないと、滲みになっちゃう。

とにかく、このとんこつを片づけて、ビニールを二重にして入れて、洗濯機を回して、ついでに干しっぱなしの洗濯物を取り込んで畳んで、仕舞って、さあ思う存分泣こう!って、もう泣けねぇーっ!