あたし次うまれかわったら、セーラー戦士になるわ。
や、まじで。
まあね、とりあえず決まりだからセーラー服も着るし、決まりだから、
もちろんね、地球だってそれなりに救ってこうって思ってるよ、
エナジーとかね、ホント大事。
でもね、何があたしをこんなにもセーラー戦士にかき立てるかって、そりゃもうタキシード仮面の存在ですよ、ひとえに。
なんつーかさ、例えば北斗の拳のユリアだとか、マリオブラザーズのピーチ姫だとかさ、攫われて囚われて助けられるみたいなポジションにはさ、女たるもの勿論あこがれるよ?
でもさ、「アーレー」とか華々しく攫われたとしても、
その後、結構暇っつーか、
クライマックスらへんまで出番なくて、
したっけやっぱ食って寝ての生活で、
下手したら助けに来られた時すげぇ太っちゃってる確率もあるわけで、もうさすんげぇ思う存分巨大化しちゃって、ボスと間違えられたりしちゃって、チョップとか食らっちゃって、あーメンゴメンゴ!みたいな気まずい状況になりかねないわけ。
それだったら、自分が体動かしてたほうがいいかなーって。
しかもさーすげぇ強敵と戦って、やられそうになるとさー、タキシード着た男が助けに来てくれるなんて、もう実生活においても、かなり理想的だと思うわけ。
これが男女のあるべき姿かなーとか思うわけ。
もうさー私がさー婦長とか先輩ナースからガミガミガミガミ怒られてると、ナースステーションのドアの影から、よくわかんないけど薔薇とか飛んでくる。
『何これ!』
『あ、婦長、ドアんとこに怪しい人影が』
『ひっ!タキシード!(しかも仮面?!)』
もうさナースステーションは一瞬にしてタキシード仮面の話題で持ちきり。
戦いの場にあの正装はどうか?とか。
セーラー戦士ときたら、普通は学ラン仮面じゃないのか?とか。
シルクハットを本気で被ってる人を初めて見たとか。
タキシードで仮面はいいとして、あのシルクハットを被るのは思春期の男の子としてはかなり勇気がいったのではないか。
あんなシルクハットでダッシュできるのか?
草むらに隠れられるのか?
風の強い日にコロコロ転がってるのを追いかけてるタキシード仮面を見た。
脱いだら髪の毛ペタってなってた。
などなどね、もう社会人の女性たちとしては、ほっとけない存在なんですよ。
で、私の怒られてた話とかはうやむやになるわけ。
つーか実社会においてのタキシード仮面の存在に比べたら、あたしの怒られてた理由なんて、もうなんつーかホント些細なことっつーか、
今、タキシード仮面になるのとガミガミ怒られるのどっちがいいつったら、
もう本当に呼んどいてタキシード仮面には申し訳ないけど、やーちょっとこの歳になってタキシード仮面はちょっともう・・親とか見てるんで・・今回はちょっと・・あ、また次回誘って下さい・・いや・・ほんと・・
て言いかねない。
やっぱさ、あいつはあいつ、私は私で、生きる世界が違った。
でも私ができなかった事だからこそ、タキシード仮面を堂々とこなしてるアイツを誇らしくすら思うよ。
たまにあいつのこと思い出して、
草葉の陰から、セーラームーン見て、じっと出番を伺って、バラを投げる手首のスナップとかを練習してるアイツを見ると、口パクで
『(ぼうしー!ぼーうーしー!)』
見えてるよって注意してあげたい。
で、シルクハットが草から出てることに気がついたタキシード仮面が軽く手を上げて私に礼を言って、さも今ついたフリをしながら、颯爽と表舞台に出ていく後姿を見ながら、
あたしもがんばろ と思う。
さーて、9月の始まりですよ。