男は狼なのよ

男子が好きです。

小・中・高と共学でしたが、一度たりとも
『男子が掃除をしてくれません!』
とか学級会で告げ口した試しがないほどに、

男子が、好きです。

触りたいとか付き合いたいとかいう具体的な欲求以前に、
ああこの地球上に男子がいて幸せ〜って思う。


でもね、そんなふうに長年、ああ見ているだけで嬉しくなっちゃうー
なんて思ってボンヤリ眺め続けていたせいで、

男性ってどっか妖精みたいな神秘のベールに隠されたイメージで、
不良は葉っぱくわえて土手で寝転んでるんだろうなぁー とか
学校の近くの公園の裏にバイク止めてたりすんだろうなぁー とか
そんくらいの知識で今まで暮らしてきたので、

いざ男性と接しろとか言われると、もう変なプレッシャーで胃潰瘍できそうな面持ちで、ちょっとした杖歩行レベルで登場するかもしんないけど・・いいの?



『いーよ』



と、彼女は言った。



大好きな友達に彼氏ができて数ヶ月。
私に会わせたいと言い出した。

まじで・・?

この手の女心が、かろうじて女でありながら、こざっぱりわからない。

私と彼氏を引き合わせたことによって、生まれるものの乏しさつったらないのに。

お互いに

「あ・・どうも・・」

と、うさんくさい運命の出会いを遂げたところで、
多分犯罪はなくならないし、
若貴は仲直りしないし、
郵政になんら影響を及ぼさないし、
ダムの貯水率は増えない。
断言できる。

しかもこんな「友達の彼氏」っつー日中関係の次に微妙な関係な人と電車内とかで会ったとしたら、すげーリアクションに困るでしょーが!



『えーっとこっちが友達の加藤はいねさんでーす』

『どーもー、よろしくー』

『で、こっちが彼のユウキ君でーす』

『あ、どーもー』


・・・会った。(断れない人)


うん。

無類の男子好きとしては、たとえ友達の彼といえども、会うに限る。
半径1メートルの距離で男子を見れただけでも、ラッキ。

うんうん。



で、どんな男の子だったかって、多分みんなそこ注目してくっと思うの。

私もそこをどんだけ人様にリアルに臨場感を持って伝えられっかに
勝負かけてっから、えーっと、結構凝視してくはずだったんだけど・・・


えーっと


ごめん・・。


顔だとかさ、雰囲気だとかさ、どんな話ししただとかさ、正直、
ほっとんど・・・。

顔とか、今となっては、へのへのもへじっぽくなってる。
電車内で会っても、多分わかんない自信はある。
3択なら少々・・ってレベル。


でも、私、ちっとも悪くないっつーか、
誰も悪くないっつーか、
こんな時代が悪いっつーか、
許しあい一体なに分かり合えたっつーか・・・。



だって、聞いてよ!
ユウキ(彼氏)の野郎。

彼女の友達に会うっつー一世一代の大イベント。
(どう思われっかな。気に入られるといいな。)とか胸を膨らませつつ何度も鏡をのぞいたりして、
(よし、衣装は完璧!)とかいう心意気で望まなきゃいけないでしょ?
まさに心の歪みは服装の歪み。
そう口酸っぱくして教えられてきた昭和生まれのアタシたちなのに、


あいつ、チャック全開だったからー!


「よー!」とか言っちゃって、すげぇフランクと思ったら、
下半身もっとフランクな状態で登場してっから。

しかも、それに私だけが気づいてる。


それから3人でご飯食べに行ったんですけど、もうさ、ユウキ君超優しいんですよ。
ドアというドアをジェントルに開けまくり、椅子という椅子を引きまくりなんですよ。

でもさー、ちくいち社会の窓は全開。
すげぇ紳士的に微笑みかけてくれっけど、その笑顔の1・5メートル下はスラム街みたくなってっから。


でもさ、こんな不幸な状況は長く続かないわけ。

『ちょっと俺、トイレ行ってくるわ』

待ってましたぁー!!

ついに待ちに待った時間が来た。
トイレに行く。チャックに気づく。
誰も傷つくことなく、一つの時代の幕がチャックと共に降りる。よし!


でもね、その数分後。

奇跡が起こった。


ユウキの奴、チャック全開で帰ってきてっからー。


うそー!
おめぇトイレで一体、何を為してきたんだっつーの!
男として最も大事な仕事が省かれてるっつーの。
こんな種類の奇跡体験全然求めてないっつの。


「ねぇねぇ、ユウキ君どう?」

友達が恥ずかしそうに私に感想を求めてくる。
ユウキ君も「そんなこと聞くなよー」とかモジモジしてる。

モジついてる場合かっつーの。
下手にモジついたせいで、おめぇのパンツの色まで垣間見えたっつーの。
何の偶然か私のパンツの色とおんなじだったっつーの。
でもそんなこと言えないっつーの!


・・ああ、もうユウキ君のこと・・変態にしか見えない・・。


男子って・・不潔よ・・。


でもさ、そんな彼も、あたしの大好きな友達を幸せにしてくれるナイスガイなんだよ。
そんな彼がさ、無闇やたらにモロ出しをするわけない。
きっと何か、彼なりの意義があるんだよ。

これは環境問題に敏感な彼なりのクールビズかもしれない。

郵政民営化に対する何らかの意思表示かもしれない。

全開のチャックの中からチラリと見える彼のパンツを凝視すると、小さなモジで「ノーモアヒロシマ」って書いてある。

上は洪水、下は大火事。・・・お風呂っ!正解!みたいなクイズ形式になってるのかもしれない。

ピーキーズウィンドウ。



あらゆる可能性を模索しましたが、彼との距離は埋まりそうもありません。