フリーザとの戦い

冷蔵庫を、もう三年も開けてない。

こわい。



1人暮らしをして、もうすぐ5年目。
ここ4年で、7回電気を止められた。

2度目に止められたのが、確か、猛暑だった、よう、な。


あの頃は、1人暮らしつったらおめぇ、そこはやっぱ自炊でしょー。
自炊つったら、やっぱ、なんつーの、魚かな?

っていう高めのハードル設定でもって、魚屋に飛び込んで、
鯵だったか鯖だったかをね、チョレーチョレー言って買ってきた、
ような。

でもね、台所という名のフィールドに立ちましたら、
案外、ヌメっとしてまして。
予想外のぬめりけ?
手元がね、完全に狂った。小一時間 狂いっぱ。

あと、なんつーか、ハラワタっつーのかしら?
あの生魚のマストアイテム?
予想以上にがっちり入ってまして、
なんなら、いつもより多めに入れといたからーっ、つーくらい入ってまして、

もう魚屋のおっちゃんの「チャチャーって取れるから」
って言葉にいいように踊らされて、閑静な住宅街の台所が、
完全に何らかの凶悪犯罪に巻き込まれつつあった。
エプロンに返り血。

それでも無我夢中で、むしろ逆境にこそアタシ燃えるんですって勢いで、掻きむしってたんですけど、
これがギターなら かき鳴らしてたんですけど、がむしゃらに、


でも、・・・あれ?ってなって。手、止めた。


なんかね、目がね、合ったの今。

魚の腹から。


なに、モジモジしてんだよー、挨拶しとけよー、
おめぇのホの字あの子だろー、チャンスものにしろよー、


って、友人に押されてね、
押されてっつーか押される感じでね、恥ずかしそうに何か出てきた。


あれ、コイツどっかで見たことある。

えっと、もののけ姫・・?

で、

おことぬしさま

が、

ダークサイドに堕ちた時、確か、ご活躍だったー!あのー!?

ニョロってしたやつ。出てきたの。



鯖、タタリ神になってる・・・!



「引き際」って言葉がね、頭をよぎりました。

ほんと、西の方角にシシ神の森を探すには、ほら、あたし、明日仕事とかあるし。

そもそも、誰かを(もしくは魚を)裁くほどものがね、
今の自分にあったのかっていうか。

ちょっと背伸びしすぎたかなぁって。
等身大の自分、案外嫌いじゃないかなっていうか。
そんな自分を再発見。

で、まぁ、うん、
臭くなるとアレだからっていう研ぎ澄まされたジャッジでもって、
タタリ神(鯖)を冷蔵庫に入れて、
生ゴミの日に素早く捨てるっていう大作戦を

立てたんですけど、決行前夜にして、東京電力に電気止められました。
ほんとね、電気止められたら実家に帰るっつー黄金の定理でもって、
完全にゴミ出し忘れてました。



で、一難去った2週間後、
あー懐かしの我が家ー!なんつって、アパート戻って、
ドアを開けたら、驚きの汚臭ですよ。
手痛い歓迎。


あ、これ、今度こそ絶対何らかの事件に巻き込まれた。
って思う心の片隅で、
あ、あれ、一匹の魚がね、確かね、居たんじゃないかなって、
ギクーってしてました。


で、窓を開けて、換気して、しばらくね、aiko聴いてた。
ほんともう、恋愛のこと考えてこうぜー!って空気すげぇ出した。

アタシ、好きな人のことで頭がいっぱいなんだからねー、って。

でもね、完全に禍々しいものがね、冷蔵庫から漂ってくるの。
お前 恋とか言ってる場合じゃねぇだろ〜みたいな怨念がね、すげぇの。


意をね、決しました。

冷蔵庫と向き合ってこうって。
腹割って、話そうって。

まずはね、えっと、偵察っていうかな、
2秒開けてみよう。

ただもう、いざって場合に備えて、
こう開けて こう閉じる
こう開けて こう閉じる
こう開けて こう閉じる
みたいな手の動きは、再三確認した。


で、開けました。
閉じました。






オーケーオーケー

大体分かった。
雰囲気つかめた。


で、aiko聴いた。


こえー
ちょーこえー
冷蔵庫、風の谷みたくなってたー。

ほんと虫とかさ、いるとは思ってたけど、
いたなー。じつにいた。おおいにいた。

でもさ、ドアとか開けたらさ、
そこはやっぱ虫だもの、一応「やべ」みたいな、
「やべ、人間だ、ずらかれ!」みたいな、そんな感じのリアクションを、
自然と期待してたなー。

動じてなかったなー。

急な訪問にも、生活スタイル、全く崩してなかった。
這う虫は這い。
飛ぶ虫は飛んでた。
魚は完全にダークサイド。

あれだな、ジブリスタジオはここだな!ここにあった。



でもさ、勝敗は見えてたんだ。はじめっから。

CD入れたらaikoが流れるように。
冷蔵庫にも、冷気が漂い始めてた。
虫たちには、今までに無い寒い冬の訪れが待っていた。



あれから三年。
鯖の野郎も、そろそろ頭が冷えた頃かしら。

あれから一度も冷蔵庫を開けなかった。
一度も買い置きをしなかった。
自炊もしなかった。
冷蔵庫はむしろインテリア感覚になってた。
平和な日々。


そして、2007年。
1人暮らし5年目の夏。猛暑。

まさかこの夏、冷蔵庫と私のリターンマッチの火蓋が
切って落とされようとは、夢にも思わなかったんですが、
立ち話も難なんで、それはまたの別の機会にでも。