フリーザとの最後の戦い

オーム、見たことあるっけ?
風の谷のナウシカとかにトコロせましと出てくるんだけど。

大抵の人はさ、宮崎駿のその壮大な世界観に 思う存分に惹きこまれてきたと思うんだけど。

私もね、遅ればせながら完全にナウシカとか見て育った世代で、
ちょっと前までは、オームの2、3匹なら転がす気満々でしたし、
なんなら腐海と共に生きるのは自分だ くらいに思ってたんですけど、


私ね、こないだ偶然みかけたの。チラッと。あいつ。
オームの奴。

いやー、あいつ全然変わってないんだもんなー。
遠目でもすぐに分かったよー。歩き方がさ、うん。歩き方が。


えっと、冷蔵庫、開けたらね、すげぇね よじ登ってた。大群で。


風の谷、茶の間に進出してた。
ご家庭の冷蔵庫に、全然あった。


その時ね、遅ればせながら、私も気付いたんです。
オームを止められるのは、ナウシカしかいないってことに。

ほら、私なんてシガナイ看護婦ですし、
蟲笛なんかも今ちょうど持ち合わせがなくて、
しかも昨日ね、あいにく寝違えまして、手首がねイマイチ本調子じゃなくて、
笛 ヒュンヒュン言わせる自信が全然ないし。
ほら、明日の仕事とかにも差し支えるし。うん。


ってわけで、なんつーかな、今じゃなかったというか、
まだ、お互いそういう時期じゃないかなっつーか、
そんなこんなで、えっと、冷蔵庫、開けなくなってから、


早三年。


一度たりとも、開けてません。密室。
これが鶴とかだったら、十二単 10着くらいできてる。
オーダーメードで。



三年かー。

遠い記憶を辿るに、たしか、一匹の鯖なんかも、いたんじゃないかなって、

でもそれも、今となれば、いい思い出。

いまや、私も冷蔵庫も、各々の生活があるわけで、
冷蔵庫は冷蔵庫、私は私みたいな、お互い冷め切った付き合いを
してきたわけで。(干渉、一切無し。)



なのにだ、
ある日、いきなり隣の工場が ふいに出火しまして、

ほんと火事とかね、避難とかね、SFの世界の中だけだと思ってた。
思わず着替えて、鍵閉めて、逃げてたわ。完全に お出かけ。

で、まぁ、見事うちのアパートも軽く焦げまして、

でもね、こげたって言っても、ほんともう ちょびっとなわけ。
むしろ、こないだ美容院でかけた私のパーマの方が、
よっぽど致命傷なわけ。こげ具合で言うなら。
だからね、絶対、建て替える必要とかね、ないわけ。


なのにだ、

「なんつーか、これでいけなくもないけど、
 関東大震災級の地震が来たらギリ」

っつー、もはやこげ具合の関与しない管理人サイドのジャッジで、
建て替えが決まり、

しかも建て変わったら、あら不思議、全然違う建物になるっぽいニュアンスの手紙が来たのが、確か7月の猛暑でした。



「引越し、かぁ・・・・・」



そんな言葉がドラマや小説以外で、まさか自分の身に降りかかってくるなんて。

まぁね、いつかはね、いつかは長い人生 引越す時もあるかもしれないけど、
まさか27歳という若さで引越すことになろうとは・・・。

引越しつったら、トレンディーな大人たちが、することだと思ってました。
柴田恭平とかがやることだと思ってた。

敷金とか礼金とか超こえーし。
そのうち身代金とか言われても、おかしくない勢いある。


で、まぁ何とか部屋を決めて、
っていう、「部屋を決めた」自分にすっかり酔ってしまって、

ほんと一ヶ月くらい、「部屋はとりあえず決めてきたから」って
会う人会う人に言ってました。

もうね、部屋決めなら、まかせてって。
なんならもう一つ決めちゃう?くらいにノリノリだったんですけど、

えっと給料から二部屋分の家賃が引き落とされた瞬間、
我に返りました。

やばい、全然引越せてない・・・。

微塵も、越せてない。


いそいで、電話ですよ。
友達から安いと評判の引越し業者に連絡しました。

日時を聞かれて、

「もーほんと、早ければ早いほどいいんですけど!」

つったら、

「じゃあ、明日の9時で」

って。



わあ、早い。



えっと、今の今まで、牛丼食ってたんですけど。
ベッドに横になりながら。

来週の月曜とか、言われると思ってた。

明日なんて、ほら、まだ、私たち、知り合ったばかりだし、
引越しなんて、まだ早いんじゃないかなっていう

心の準備もさることながら・・・


えっとー、正直 今ダンボール一つ無いんですけどー。
部屋とか汚いどころか、服や雑誌が地層のようになって、フローリングの床とか2年くらい見かけてないんですけどー。元気ー?



・・・返事なし、っと。


とりあえず、ダンボールはコンビニでもらえるよ。

っていう文化祭あたりで風の便りで聞いたフレーズを思い出し、コンビニに駆け込みました。


いやー、まさか、もらえないでしょー?そんなうまい話が〜?
みたいな感じで、

「(まさか)ダンボールもらえますか?」

って言うと、店員 普通に「はい」とか言っちゃって、

もらえんのー?!

すげー
すげーツウっぽい。
引越しツウ。

やったね!やったね!ダンボール2個ゲットー!
ちょれーちょれー。引越しチョレー。





2箱かぁ・・・。




もっと下さいって言えなかったなぁ。

カバンとマクラを入れて、2箱、つめ終わっちゃったよ。

2箱じゃ、多分、引越せない…!



どうしよう。って思った、そんな時、私の足元に「ガラスの仮面」が転がってたんです。

ほんと気付いたら無心で読み漁ってました。


やー八時半に、トラックのピーピーピーッていう横付けしてる雰囲気の音を聞いたとき、血の気引いた。

お風呂入ってる場合じゃなかった!

ほんと3時間あれば、引越し準備くらいできる、が、
いや、本気出せば2時間でいけるんじゃねぇ?になり、
いやいや、すげぇマックスで動けば30分でしょ、に変わり、
気付いたら、気合を入れるためにお風呂入ってた。ミラクル!


いやー、ドアを開けた時の、引越し業者さんの顔、忘れられない。


一言目が「何かありましたか?」だったもん。
いや、もうむしろ、何もしてなかったんです。
部屋の荒れようは、事件性ゼロです。

で、後ろについてきた2人の業者はあきらかに外人で、
口々に「トラブぅー?」「トゥラブー?」つってた。
断じてトラブルってない。

で、まぁトクトクパックだったんですけど、
急遽、楽々オマカセパックになりまして、(←トラブル)
楽々とは程遠いすげぇ重圧の中で、男3人がすごい勢いで、
うちのものをダンボールに詰めてってくれてました。

ほんと、準備を怠った私が悪いんですけど、
わかってるんですけど、

た、たたむとか・・・
わ、わけるとか・・・
ないんですね。

ほんと手当たり次第、ぶちこまれてました。
カピカピになった何かとか。

つーか、ゴキブリがね、いたんです!

私はね、もう声無き声を上げて、急いで台所から殺虫剤を持ってきたんですけどね、
外人がね、無心で詰めてんの。
で、ゴキブリいねぇの。

詰めてません?

ほんと、準備を怠った・・私が悪いんですけど・・。


あと牛丼の食べかけとかも、ビニールに入れられて、
「捨てられないから、これも運んじゃうよ」
って言われました。

ゴミもね、引越します。
ほんと、ゴミ合っての私ですからー。


で、だいたい部屋も片付いてきて、
洗濯機やパソコンなんかが運び出される中、

ついにね、あの、冷蔵庫にね、手が伸びたんです。


伸びたっつーか、伸びなかった。


「これ、運べないよ。
 電源入ったままだし、中のもの、入ってるんでしょ?」

って言われました。

完全に憶測で。

はい、入ってます。ごっそり入ってます。いつもより多めに入れてあります。

もうね、あわよくば、ふらりと運んでくれると思ってた私が馬鹿だった。

で、まぁ冷蔵庫は、あとで運ぶとして、
とりあえず、どうにか引っ越しました。



引越しちょれー!
何だかんだで引越せてる、この手腕ー。完全に敏腕!

なんつって、優雅に暮らしてたんですけど、
電話が来まして、前のアパートの管理人さんから、


冷蔵庫が、どうやら、置きっぱなしです、っと。

あ、やっぱ?

見当たらないなーって思ってた。

で、明日までに、取りに来てもらわないと、困る、と。

ですよねー。ですよねー。


で、まぁ最終局面を迎えまして、取りに行った。


取りに行ったは、いいものの、完全に身一つなんですよね、私。

何らかの台車とかね、何らかの軽トラとかのね、
そういうコネ一切なし。

ぴん。

裏取引でもないのに、のこのこと、1人で行ってた。


で、まぁ一階までは、見かねた管理人さんが一緒に運んでくれた。

結構ね、重くてね、途中、互いに「(そっち本気で持ってます?)」的な空気があったんですけど、何とか一階に着きまして、で、

「車か何かで来られたんですか?」

っていう管理人に、「あ、まぁ」って言ったんですけど、

「車か何か」っつーか、どっちかっていうと、「何か」の方で来ました。はい。

ここ一番に、チャリンコ。



とりあえず、このあたりから無言の管理人さんに手伝ってもらいながら、荷台に冷蔵庫をビニールテープでくくり付けました。

いやー、拭い去れない荷台のアウェー感。
完全に冷蔵庫が荷台を凌駕してた。

なんつーかな、自転車に冷蔵庫を括りつけたはずなんですけど、
冷蔵庫に自転車が括りついたみたいな一種の下克上が起こってた。

で、どうにか自転車にまたがったら、管理人さんが重い口を開いた。


「加藤さん、これは、無いよ?」


や、うん。

またがっただけでも、すっごい、感じてます。
荷台からヒシヒシ伝わる躍動感。


「だ、大丈夫です・・。
 えっと、今までお世話になりました!」


つって、にこやかに2メートルくらい先で、自転車がウイリーしてた。

ママチャリ初ウイリー。

ナポレオンの肖像画みたくなってた。

そんな華々しい出陣の末、5メートル先で転びました。
ほんと前輪が2メートルくらい上がったし。


で、見事に冷蔵庫のふたが開いて、
3匹ぐらいちっちゃいオームが逃げ出してました。

ちょろっと飛び出した鯖とも三年ぶりの再会。
あいつ、人が変わったようになってたなぁ。
都会の色に染まってた。


その後、無言の管理人さんに車で新居まで送ってもらいました。


で、まぁ冷蔵庫も無事到着しまして、
またこいつと 一からやってこうって。

なんつーか、結局、手のかかる子ほど可愛いってことで、

変な汁が、夜な夜な下から出てくるんですけど、
これもあいつの愛情表現の一つなのかなって。

ほんと、昨日とか、黒い汁 出てたんですけど、

・・何かあった?

みたいな黒汁だったんですけど、
今日は なんと青汁でした。

ほんと、愛情表現が豊か!

喜怒哀楽、全部 汁。


そんな冷蔵庫が、私は大好きです!


(よし、書き切った!)