明日から本気出す!

看護師になって9年くらい経つわけですが、
いまだに、挙動不審。

常に、お茶の間でテレビがラブシーンに突入したときの、
家族みたいな動きしてる。

お茶でも入れようかしら・・
新聞、新聞・・えっと巨人が・・

みたいな雰囲気で仕事してます。


もう9年間、見るものすべてが初めて。
いつも初見。
全然、地に足つかない。

常に、
落ち着けー落ち着けー
と思ってる。

大抵の時間をオロオロしながら過ごしてる。



あー、新人の追い上げがキツイ。

今年4月に入った新人とか、すげぇ追い上げてくる。
今年4月に入った新人とかの、伸びが、すげぇ。

私も4月からマジカル転職をしてこの病院に来た身分で、
スタートラインは、いわば同じ。

9年の経験値も なんのそので、結構いい勝負してる。


と、思ってたら、この前、この新人が先輩から、
あだ名で優しげに呼ばれてるところ発見。

す、好かれちゃってる。
7月の段階で好かれちゃってる。

7月とか、あれでしょ?
普通好かれたりしないでしょ?
世間の冷たさを知って、もっと、打ちひしがれる時期でしょ?

先輩に好かれるとかのイベントは、
3年後とかでしょ。のちのヤツでしょ。


ならばと。
私も…遅ればせながら、好かれたい。
是非とも、あだ名で呼ばれたい。


と、思ってね、ピッチに踊りだしました。
もうね新人がマゴマゴしてようもんなら、
そのボールいただき!とばかりにね。


「すいませんCT室がわからないんですが…」

とか点滴を引いた患者さんに言われようもんなら、
もうね、よろこんで!とばかりに、

流し目で先輩を見ながら、ご案内してたんですけど。

しめしめと思って、契約1個取ったくらいの気持ちで、
ご案内してたんですけど。


10分くらい経ったかな、
もうびっくりするくらい患者さんの思いにね共感。

すいません…ちっともCT室がわからないんですが…?


今までは、前の病院では、9年間で得た地の利を生かして、
どうにか先輩っぽい風をね、弱風ながらに吹かせてきたけど。
もう、そよ風的に。ほんと心づけ程度で。

「まあ、病院なんてどこでも一緒みたいなとこ、あるよね」
が、口癖だったわけですが。

一緒みたいなとこ、無かった!
まさかの、地の利ゼロ。
全然ちげぇ。見たことねぇ。

あー、クイズところ変われば!って山口さんが
あれほど口酸っぱく言ってたのに。


通っぽく「関係者以外」みたいなエレベーター乗ったら、
若干、お客に見せちゃいけない内部みたいなとこに降り立った。

土管でも潜ったかしら?っつーくらい、完全に地下面。


あれ、CT室・・噂では地下1階って・・あれ・・
ってモゴモゴ言いながら、必死に探したんですけど、

この段階になって、連れてきた患者さんが、
結構コワモテのおじさんでもあるなってことも
気になってきたんですど、

あー無言の点滴台のガラガラガラがね、
背中から、すごいプレッシャーで聞こえてくるんですけど。

その点滴棒、金剛力士像とかが持ってるやつじゃないですっけ?
くらいの猛々しさを背後から感じる。

もうね、1歩1歩が未知との遭遇なのに、
ピッタリついてくるのね、患者さんが。
案内してるから、当たり前なんですけど。

あれ、ドラクエの先頭の重圧ってこんなだったっけ?
みたいなね、
もうね、案内してるんだけど、ちょっともう巻きたい。


で、まあ、しばらく歩いたんですけど、
歩けども歩けども、おばさんたちがね、シーツをたたんだり、
シーツをたたんだり、たまに運んだり、
もー絶対CTを取りそうな気配がないわけです。待てど暮らせど。

白衣を着てる人すらいない。
完全におばちゃんとシーツの国。


で、私もね、大人ですし、後ろの金剛力士像が超無言だし、
ここはね、もう聞いてこ。と。

「えっと、地下1階にCT室があるって聞いたんですけど」

ってね、勇者が村人に話しかける感じで、
おばちゃんに聞いてみたんですけど、

「あーここじゃないよ。
 地下は地下でも、東館の地下でね、
 そこにいくには2階の放射線科の横の連絡通路から、
 右に曲がってね」

つって、丁寧に教えてくれて、

「あー、あそこかー」つって、村人と別れたんですけど、

ピンときた感じ、存分に披露したんですけど。

全然ピンと来なかった。
完全に初耳。

初耳すぎて、最初の東館ってとこしか聞いてなかった。
あと、なんか右みたいな。右が肝みたいな。

んで、結局、おばさんに話を聞いた最初の1歩で道を間違えてね、
ほんと、第一印象から決めてました。

で、患者さんに「いや、こっちじゃない?」ってね言われまして、
結果、患者さんにCT室まで連れてってもらいました。

ほんとね、点滴棒を持つ姿なんて、まるで魔道師じゃない?
ってくらい堂々とした歩きっぷりで。


で、まあ、帰りも普通に迷いましてね。
CT撮ってたはずの患者さんの方が早く病棟についてました。


やっと・・故郷が見えた・・・
くらいの気持ちで帰りついた私を、
先輩がじぃ――――――っと見てました。はい。

え・・えへ・・って感じで笑ってみると、

「あなた、名前なんだっけ?」って聞かれたので、

満を持して

「伊藤です」って答えました。咳込みながら。


えっと、のちの加藤です。のちの・・・。